新刊の出版でトークショーを開いた田代まさし氏
目次

 音楽グループ「シャネルズ」のメンバーとして1980年にデビューし、バラエティを中心に数々のテレビ番組に出演した田代まさし氏。2000年から盗撮や覚醒剤所持などで5回逮捕されたが、2022年10月に出所し、近年はミュージシャンやMCとしてイベントに出演。YouTubeチャンネル「MARCY'Sちゃんねる」でも活動している。7月には挫折の中で自分を支えてくれた著名人や友人の言葉を集めた名言集『こころの処方箋』を上梓した田代まさし氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──田代さんを支えたさまざまな方々の言葉が紹介されています。なぜ本書をお書きになったのですか?

田代まさし氏(以下、田代):ご存じのように、私は何度も法を犯して逮捕されました。その度に「もう二度とこういうことはしない」と心に誓うのですが、薬物依存という病からはなかなか回復できず、いつになったらこうした状態から抜け出せるのだろうかと思い悩む日々を過ごしてきました。

 最後に収監された福島刑務所にいたときに、官本(刑務所に収蔵された本)から、世界の偉人たちの名言集を借りました。読みながら、私自身がさまざまな人からいただいた言葉たちを書き残したいと思うようになりました。

 刑務所の中の雑記所に、そうした言葉を書いては、その言葉をくれた人の似顔絵を描き添えるということを続けました。やがて、いつかこの名言集を本にして出版したいと思うようになり、そうした目標もまた自分が立ち直る一つのきっかけになると考えました。

 出所後に、複数の出版社を訪問して本にして出せないか相談しましたが、田代まさしの本を出そうと考える出版社はなかなかありませんでした。「私はすごくいいと思うんですが、上司がうんと言わなくて」なんて言われてね。やがて、アマゾンから自主出版で出そうと考えるようになりました。

 アマゾンにも審査があるので、通るか不安もありましたが、審査を通過できたので、今回このような形で本として出すことができました。

──本書では、罪を犯した人に向けたさまざまな方々の言葉が紹介されています。実際に「この言葉には救われたなぁ」と強く感じる言葉はどの言葉ですか?

田代:たとえば、小学校の同級生で、脳神経外科専門医の岩間淳一くんの言葉をこの本で紹介しています。刑務所を出た後、小学校の同窓会の声がかかりました。最初はとても行く気がしなかったのですが、同級生たちから「行こう、行こう」と誘われ、ためらいながら参加しました。

 そうしたら、小学生のときに優等生だった岩間くんと再会して、思わず「迷惑かけてごめんな」と言ったら、「お前が何回捕まっても同級生に変わりはないんだよ」と言ってくれて、すごくほっとしました。

 脳神経外科専門医の彼は依存症に詳しく、依存症になると、脳がそういう動き方をしてしまうからなかなか抜け出せないことをよく理解していると言ってくれて、その後もしばしば相談にのってもらうようになりました。

──やはり事件後に同窓会に行くのはつらかったですか?

田代:つらかったですよ。合わせる顔がないというか、誘われて行ってはみたけれど、皆がいる部屋のドアを開ける前に「どうしよう……」と、思わず立ち止まるよね。