脳はアイドリング状態の時も働いている(写真:vectorfusionart/shutterstock)
脳科学者・茂木健一郎氏が2017年にロンドンの出版社から発表した「生きがい」について英語で書いた著書『The Little Book of Ikigai - The secret Japanese way to live a happy and long life』(Quercus Publishing)が海外で大ブレイクしている。世界32の言語に翻訳され、57の国で出版。特に売れているドイツでは、ノンフィクション部門で2024年年間ベストセラー1位に輝いた。
なぜ生きがいに注目したのか。生きがいからどんなことが言えるのか。『生きがいの見つけ方 生きる手ごたえをつかむ脳科学』(PHP新書)を上梓した茂木健一郎氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──なぜ「生きがい」について本を書かれたのですか?
茂木健一郎氏(以下、茂木):脳の働きやAIとの関係を考える上で、「生きがい」が重要なテーマになると考えて研究対象にしてきました。
人間は皆「評価」というものを気にします。学生でいえば、テストの点数や偏差値、社会人になれば、就職先や年収、ルッキズムもありますよね。これに対して「生きがい」は、他人の評価とは関係のない自分の内なる喜びです。
人間は皆、それぞれ異なる生きがいを持っています。ある人は朝コーヒーを飲むことが、ある人は犬を散歩に連れていくことが生きがいです。私はというと、蝶を見ることが生きがいで、子どもの頃からずっと好きです。
春に開花した桜をわざわざ見に行くように、日本の文化は生きがいを大切にしてきました。さらに、そうした感性が、日本が世界に誇るさまざまなコンテンツ作りにもつながっていると思うのです。
日本に取材に来た外国のある記者が、コンビニの卵サンドを食べて「世の中にこんなに美味しいものがあるのか」と驚いたそうです。卵サンドの作りかた、たこ焼きの作りかた、漉しあんと粒あんの違い、ラーメンのスープの味など、日本人はほんのわずかな違いに異様にこだわり、そこに生きがいを感じる。
日本の職人のこだわりは凄まじく、金属加工の会社の工場に取材に訪れたことがありますが、「表面のテカテカ感がこの感じじゃないとダメだ」という、そこで働いている方々の独自のセオリーがありました。それが自分の内なる感覚であり、喜びなのです。
日本のコミケ(コミックマーケット)も海外から見ると驚異的で、なぜファンが集って、二次創作やコスプレでこんなに盛り上がるのか、と不思議に感じています。彼らはプロではなくアマチュアなのに、「このキャラクターはこう演じる」という深いこだわりがある。これも自分ならではの内なる喜びです。
「ジブリアニメ」「ポケモン」「スーパーマリオ」のような世界的にヒットした日本のコンテンツにも、共通点として生きがいがあると思います。ポケモンをつくったゲームクリエーターの田尻智さんは、子どもの頃に昆虫採集に熱中した経験がポケモンの原点になったと語っています。クリエイターは小さな喜びを大事にしている。それが人に伝わるのです。
──無意識を耕すことの効果や意味について解説されています。「無意識を耕す」とは、どういうことですか?
