脳を維持するコストは高い(写真:graphica/イメージマート)
私たちは皆、得意なこともあれば不得意なこともあり、それぞれが自分ならではの悩みや苦労を抱えて生きている。だからこそ、自分の脳の特徴をもっと理解して、より自分の脳と上手に付き合うことができれば、心地よく楽しく生きることができるのではなかろうか。『悩脳(のうのう)と生き 脳科学で答える人生相談』(文藝春秋)を上梓した脳科学者の中野信子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──本書では、有名な方、無名の方、数多くの方々からの人生の悩み相談に中野さんが答えています。中野さんご自身は、悩みを抱えているときに人に相談しますか?
中野信子氏(以下、中野):私はわりと人に相談するほうだと思いますが、本当に信頼のおける古い友人など、話す相手は限られています。
ただ、最近仲良くなった人でも、自分と同じ痛みを抱えていると感じる人であれば相談することもあります。相手に対して自己開示することが、相手だけが相談をしているという形にならないのでリラックスしてもらえるということもあるんですよね。
──この本の中で、「人の悪いところばかりが目につく自分を何とかしたい」と相談されている方がいました。中野さんは、脳の前帯状皮質という部分がさまざまな矛盾を見つけ出すと説明しています。SNSなどは批判的なコメントであふれていますが、人の問題を指摘し続けていると、前帯状皮質の活動がどんどん活発になって、ますます攻撃的になっていくということはあり得ますか?
中野:あり得ると思います。人の矛盾を見つけて指摘するということは、脳にとって気持ちがいいことです。人の矛盾に気がつく人は、自分の矛盾にも気がついても良さそうなものですが、自分のことは見えず、他人のことには良く目がいくというのもこうした人々に特徴的な性質です。
「言っていることとやっていることが違う」「このような立場の人は本来こうあるべきでしょう」「あの人がこんな人だとは思わなかった」などなど、人の違和感を見つけた時に正義の側から糾弾すると、前帯状皮質が活性化します。
こうあるべきだと上から説教をして、常に自分が正義の側に立つことができるということは快感です。正論で言われたら相手は反論しづらい。また、その反論も新たな攻撃の材料にできるので、正論はますます強力になっていきます。このスパイラルは止めることが難しく、恐ろしいものだと思います。
──共感性があまりにも高く、他人の失敗を目にすることさえ苦痛という人の相談がありました。中野さんは、共感性が高いということは眼窩前頭皮質の機能がよく働くということで、それは基本的に良いことで、逆に共感性が低い人はサイコパスだと説明されています。共感性は訓練や治療で養うことができるのでしょうか。