ミュオグラフィを活用することで、クフ王のピラミッドで未発見の巨大空間と回廊が見つかった(写真:AP/アフロ)
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 地球の大気に降り注ぐ宇宙線。その一部から生まれる「ミューオン」は、驚くべき力を有している。なんと、クフ王のピラミッドのような大型構造物や火山、断層、さらには輸送コンテナの内部を透視できるという。

 宇宙線研究の第一人者で、『宇宙線のひみつ 「宇宙最強のエネルギー」の謎を追って』(講談社)を上梓した藤井俊博氏(大阪公立大学大学院理学研究科准教授・南部陽一郎物理学研究所兼任研究員)に、天然のミューオンを活用した最新の観測技術について話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──本書のタイトルは『宇宙線のひみつ』です。改めて、宇宙線とはどのようなものか教えてください。

藤井俊博氏(以下、藤井):宇宙線とは、宇宙空間を飛び交っている高エネルギーの粒子です。多くは陽子で、私たち人間を構成するような素粒子でできています。「宇宙放射線」と呼ばれることもあります。

 中でも私たちが注目しているのは、10の20乗電子ボルト(100エクサ電子ボルト)を超えるエネルギーをもつ「極高エネルギー宇宙線」です。

──書籍では、「ミューオン」という素粒子が登場しましたが、宇宙線とはどのような関係があるのでしょうか。

藤井:ミューオンは、極高エネルギー宇宙線が地球の大気と衝突することで生まれる素粒子です。極高エネルギー宇宙線が大気中の分子とぶつかると、パイ中間子という粒子が生成され、その後、崩壊してミューオンになります。

 このパイ中間子は、湯川秀樹博士が予言し、後にノーベル賞を受賞したことでも知られる粒子です。

 パイ中間子の寿命は約2.6×10のマイナス8乗秒と非常に短く、すぐに崩壊してミューオンとミューニュートリノを生成します。

──ミューオンを使った「ミュオグラフィ」とはどのような技術ですか?

藤井:ミュオグラフィは、巨大構造物や地下の内部を透視する技術です。

 ミューオンは、今この瞬間も地球全体に一様に降り注いでいます。物質の密度が高ければ、ミューオンは多く吸収されます。逆に、空洞があればミューオンが通過しやすくなります。

 このようなミューオンの特性を利用すれば、対象物の内部にある構造や空洞の存在を非破壊で推定できるのです。

──レントゲンとはどう違うのでしょうか。

藤井:使用する粒子が異なります。

 レントゲンはX線を使いますが、ミュオグラフィはミューオンを使います。ミューオンはX線よりも物質を透過する力が強く、1キロメートルの岩盤も貫通可能です。しかも、常に自然発生するため、人工的に照射する必要がなく、地下構造や大型構造物の観測に適しています。

──ミュオグラフィの具体的な応用例を教えてください。