「人手不足→過重労働」の悪循環
保坂:医師や教員など、長時間労働が常態化している分野では、ブラックな労働環境を嫌って志望者が減るという悪循環が起きています。特に外科医不足は深刻で、このままでは、手術をする医師が不足してしまうと予測されています。
物流のドライバー不足も、「絶滅危惧職」とされた歯科技工士も同じ問題です。
長時間労働が常態化しているブラックな職場を放置することは、その職業のなり手不足を助長します。長時間労働ではなく、労働時間規制の見直しを推進する政府には、このような現実を見てほしいと思います。
──ブラックな職場では、人手不足でますます過重労働になるという悪循環が生じてしまいますね。
保坂:特に教育現場は深刻な状況に陥っています。1人が病気で休むと、その「穴埋め」で別の教員に負荷がかかり、2人目が倒れていく「連鎖」=「ドミノ倒し」が起きています。
本来なら欠員が出れば代替教員を配置すべきですが、それができない。これは安全配慮義務の観点から問題です。だからと言って、代替教員が確保できるわけではないというのが悲しい現実です。
産育休や病気・介護休暇で欠員が出た際の「穴」をどのように埋めるのかについては、まだ法律で義務化されていません。これまで教員や公務員は比較的恵まれていて代替要員が配置されてきました。とはいえ、教員については代替要員が見つからない事例が相次いでいます。
大企業では、ピンチヒッターが用意されることもあるようですが、中小企業ではそこまで手が回らないというのが現状だと思います。
休んだ人の穴埋めに無関心な日本
──その点について、今後どのように解決すべきだと思いますか。
保坂:厚生労働省は、主に中小企業の事業主を対象に両立支援等助成金制度を実施しています。この制度は、「育児・介護・不妊治療・女性の健康課題」などを抱えながら働く労働者に対して、仕事を継続・両立しやすい職場環境を事業主が整備することを支援するものです。
この制度の目玉の一つは、「育休中等業務代替支援コース」で、育児休業中・短時間勤務中の社員の「業務代替」体制を整備した事業主を支援するものです。代替要員の確保や手当制度の導入などが対象となっています。
ただ、本来であれば補助金で解決するのではなく、代替要員を確保する仕組みが必要です。産育休や病気・介護休暇がいくら保障されていても、代替要員がいないために休めない、ないしは肩身が狭くなって退職してしまうという事例が後を絶ちません。