「ゼレンスキー氏の窓口としては避けたい相手」
イェルマーク氏の国内での人気は低く、今年3月の世論調査では「信頼する」が17.5%、「信頼しない」が67%。米欧の外交官から「ゼレンスキー氏の窓口としては避けたい相手」との声が上がっていた。
今年7月にはイェルマーク氏の腹心とされるルスラン・クラフチェンコ検事総長の下でNABUとSAPOの独立性を奪う法改正が強行され、両機関への家宅捜索が行われた。「反汚職機関つぶし」の黒幕はイェルマーク氏と複数の与野党議員や市民団体が名指ししていた。
エネルゴアトム疑惑でも首謀格とされるミンディチ氏がイェルマーク氏を「友人」と呼び、汚職疑惑が相次いだことから「これほどの大規模スキームがイェルマーク氏の認識なしに動くことはありえない」とみる声は強い。
イェルマーク氏はゼレンスキー氏の政治生命を左右し、ウクライナ国家の権力構造の中心に君臨するキーマンだ。その失墜はゼレンスキー政権の暗い未来を予感させる。
米欧では「この機会に大統領府の過度な権力集中を是正し、議会と独立機関の役割を回復できるかが試金石」との見方がある。イェルマーク氏の退場は政権崩壊の入り口か、統治の正常化に向けた苦渋の一歩か――。ウクライナは重大な岐路に立たされている。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。



