「高齢者連れ去り」の3つの段階
第1段階は、調査不足によるずさんな虐待認定だ。ある日突然、自治体関係者や警察、介護事業者のスタッフなどから連絡があり、「あなたは家族を虐待している」と決めつけて告知される。虐待したとされる証拠は事例によって異なるが、高齢者の身体にあるあざや傷跡を「身体的虐待」とされたり、認知症の人が道に迷って保護されたことをもって「介護ネグレクト」と言われたりすることが多い。
虐待をしていなくても、日常生活の中であざや傷はできるものだ。しかし、自治体の職員はそれを「あなたが暴行をして傷つけた」と断定する。東京都港区のケースでは、当の高齢者の傷跡は何年も前の海外旅行時のものだったにもかかわらず、港区側は娘に対し、「虐待の証拠」と主張して譲らなかった。結局、この傷跡などを証拠として「虐待から高齢者を守る必要がある」との理由で、高齢者は病院に隔離された。
ずさんな虐待認定に、当然、家族は自治体の職員に抗議する。ここで「面会の妨害」が起きる。これが第2段階だ。
自治体の職員は抗議に対し「今は誰であっても面会を認められない。居場所を教えることもできない」と告げるのみだ。虐待の加害者として疑われている人に対してだけではなく、別の家族や友人との面会も認められない。この時、「虐待を理由に面会を禁止するなら、それを文書で示してほしい」と求めても、拒否されることが多い。自治体の職員は、書面での記録を残さないようにして面会禁止を継続することが多い。書面による通知は自治体の責務だが、それが遵守されていないのだ。
最後の第3段階は、連れ去った高齢者について自治体の首長権限で家庭裁判所に成年後見制度の申し立てをすることだ。
厚生労働省の資料によると、成年後見制度の申し立ては「本人や4親等以内の親族が行うことが原則」となっている。首長権限による申し立ては、どうしても親族が見つからないなどの例外として認められているに過ぎない。
しかし、「後見制度と家族の会」やフロントラインプレスの取材によると、自治体職員は、家族や親戚に成年後見制度の申し立ての意思があるかどうかを確認せず、家族らは「気がついたら勝手に成年後見人がついていた」という事例が多い。成年後見人が選任された場合、財産は成年後見人によって管理されるため、金融機関の口座からの入出金も成年後見人が担う。住んでいた不動産の売却が、家族の確認もなく勝手に進んでいたケースもある。
成年後見人の行き過ぎた行動を裁判に訴えても、救済される確率は低い。
「後見制度と家族の会」代表の石井さんは「どれほど不当な行為を成年後見人がしたとしても、法律上は成年後見人の意思は本人の意思とみなされるので、裁判で勝つことはできない」と話す。