東京都港区で開催された交流会の様子。正面で話しているのは、岩波初美千葉県議員=「後見制度と家族の会」提供
(西岡千史、フロントラインプレス)
本人も家族も望んでいないのに、行政が高齢者を親族から引き離し、長期間、面会も許さない。自治体が勝手に「高齢者の認知症が進んだ」「虐待から守る」などと判断し、施設に収容してしまうのだ。その間に行政権限で高齢者に成年後見人が付き、家族の同意がないまま財産処分の手続きが進んでいたケースもある。
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YouTubeで江東区事件について詳しく解説しています。連れ去りの現場の衝撃映像も見ることができます。ぜひご覧ください。
当の高齢者は、やはり自治体の判断によって医療保護入院させられて精神科病院などから出られなくなり、親族との連絡が遮断される。被害に遭った当事者や親族は「親が死ぬまで会えないのか」「自治体による高齢者の誘拐ではないか」と憤っている。
調査報道グループ「フロントラインプレス」は、東京都の江東区と港区を舞台とするそんな実例を報告してきた。いずれも「自治体がそんなことをするはずがない」「被害者の方に落ち度があったのでは?」と思いたくなるケースだ。しかし、いずれも紛れもない現実である。
こうしたケースは、江東区や港区だけで起きているのではない。フロントラインプレスの取材によれば、全国で少なくとも20件以上は存在している。
「私の母は自治体に拉致監禁され、殺された」
今年2月、東京都内のある貸会議室で、小さな集まりがあった。全国で多発する「行政による高齢者の連れ去り」。その被害者たちが互いに情報を交換し、問題解決に向けた糸口を探る狙いである。主催は「後見制度と家族の会」。悪質な成年後見人による被害を受けた人たちが中心となり、2021年に設立された。東京での交流会には、約20人が参加。遠く滋賀県から足を運んだ人もいた。
交流会では、2018年に行政職員によって母が連れ去られたという東京都内の女性が、自らの体験を語った。連れ去られた後に役所に繰り返し居場所を教えるように求めたが認めてもらえず、なぜ面会を妨害しているのかについての理由も教えてくれない。そのうち母親に成年後見人がついたが、状況が変わることはなかったという。
この女性によると、再会できたのは母の連れ去りから約3年も経過してからだった。短時間しか面会できなかったが、母の変わり果てた姿に衝撃を受けた。長年一緒に暮らした母。体調の異変はすぐにわかる。しかし、病院の健康診断の結果を見せるように成年後見人に求めたところ、「病院が診断結果を渡してくれなかった」と告げただけだったという。
病院が診断結果を患者に渡さないはずはないと考えた女性は、病院に直接行って開示を求めた。すると、母の腎臓は人工透析が必要なほど状態が悪くなっていたことがわかった。「後見人はそれを隠そうとしていたのだと思う」と女性は怒りをあらわにした。
その後も面会は認められず、母は施設の中で亡くなった。危篤になっても家族や友人と会うことも電話することも許されず、孤独な最期だったという。交流会の場で女性は最後、「私の母は自治体に拉致監禁され、そして殺されました」と語気を強めて訴えた。

