「私を売ってください。お金にして下さい」
人身売買は日本でも古くからあった犯罪だ。そして人身売買、それと切っても切り離せない管理売春は、ヤクザの古典的なシノギである。
筆者は、監修した『「女ヤクザ」とよばれて ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』(清談社Publico、2024年)の主人公・西村まこさんを取材した際に、昭和の人身売買のリアルを聞いたことがある。こうした犯罪が起こらないよう「人身売買罪」が新設されたわけだが、それが機能していないとすれば、昭和の犯罪は現在と地続きになっている可能性も捨てきれない。
若中時代の西村氏。当時借りていた組事務所近くの自室にて
そこで、西村さんから聞いた昭和の人身売買の実態を以下に紹介してみたい。
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──西村さんが売り飛ばした女性の事例を教えてください。
「そうですね。最後のケースですが、サオリの話をしましょう。少年院が一緒だったサオリは、私が経営していたデートクラブでも働いてくれたことがあります。彼女は、事務所近くにあった私の家に住み着いてゴロゴロしていました。
ある日『まこさんにご迷惑ばかりかけてしまいました。何も恩返しできませんから、私を売ってください。お金にして下さい』と、言い出したではありませんか。『おめえ、売られるって、どういうことか分かってんだろうな』と問うと、殊勝にも『はい、覚悟の上です』と言います」