AI分野での相次ぐ「一手」

 ジャシー氏が10月下旬に「カルチャー改革」という大鉈(なた)を振るうことができた背景には、その直後に発表されることになる足元の業績改善がある。

 こうした好材料を見込み、かねて懸案だった組織の肥大化解消に踏み込んだ形だ。

 10月30日に発表された第3四半期(7~9月期)決算は、市場予想を上回る増収増益となった。AWSの売上高も前年同期比20%増と、2022年以来の高い成長率となり、AI需要が本格的に業績に寄与し始めたことを示した。

 さらに11月3日、アマゾンは米オープンAIと7年間で380億ドル(約5兆8000億円)に上る大規模なクラウド契約を締結。AI開発の最前線を走るオープンAIという巨大顧客を獲得したことで、「AI出遅れ」という市場の懸念を払拭した。

 一連の好材料を受け、アマゾンの株価は11月初旬に史上最高値を更新した。

「AI推進」と「士気低下」

 だが、経営陣が推進する「効率化」は、現場の従業員に深刻なひずみをもたらしている。

 米経済ニュース局CNBCによれば、従業員の士気は低下しており、「より少ないリソースでより多くの成果」を出すよう求める圧力と、継続的なコスト削減が現場を疲弊させている。

 10月下旬の人員削減発表時、人事部門トップがメモで用いた「機敏であり続ける(Staying nimble)」という表現は、的を射ていない説明だとして、従業員の皮肉を買い、ミーム(ネット上のネタ画像)として拡散した。

 特に深刻なのが、AIに対する従業員の不安だ。

 ジャシーCEOは、今回の人員削減について「AIによる代替が目的ではない」と公言する。だがその一方で社内ではAIの積極的な活用を推進している。

 米メディアによれば、アマゾンは従業員のAIツールの使用状況を監視し、その利用頻度を業績評価に組み込む可能性さえ示唆しているという。

 こうした動きに対し、社員でつくる権利擁護団体「AECJ(Amazon Employees for Climate Justice)」は10月下旬、経営陣に「より責任あるAIの展開」を求める公開書簡を公表。

「アマゾンは、我々を切り捨てることがより容易になる未来に投資しながら、我々にAIの使用を強制している」と、AIが自らの雇用を脅かすことへの懸念を強く表明した。