「iPhone 17」発売日にニューヨークのアップルストアに姿を現したティム・クックCEO(9月19日、写真:ロイター/アフロ)
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 米アップルの時価総額が10月下旬、初めて4兆ドル(約610兆円)の大台を突破した。

 10月31日に発表された2025会計年度第4四半期(7〜9月期)決算も、「iPhone 17」の販売好調を受け市場予想を上回る増収増益となり、好調な年末商戦への強気な見通しが示された。

 だが、約半年前の4月時点では、同社の時価総額は2.6兆ドルまで急落し、世界で最も価値のある企業の座を失っていた。

 株価低迷の背景には、①ドナルド・トランプ米大統領の対中関税政策、②司法判断による巨額収益源の喪失、そして③AI開発競争での出遅れという、同社の経営基盤を揺るがしかねない「三重苦」があった。

 この危機的な状況を、ティム・クックCEO(最高経営責任者)はいかにして覆したのか。ここ数カ月の同社の動きを振り返ると、製品革新とは異なる、クック氏のしたたかな政治・法廷戦略が浮かび上がる。

①「交換条件」で関税リスクを回避

 投資家が最も恐れていたのが、トランプ氏の関税政策だ。

 アップルは依然としてサプライチェーン(供給網)の多くを中国に依存しており、高率関税はiPhoneのコストを直撃する。4月にトランプ氏が大規模な輸入関税を発表した際、同社の株価は数日間で20%以上下落した。

 この危機に対し、クック氏は過去の成功体験に立ち返った。

 第1次トランプ政権時、クック氏は「派手なアピール文言」を与えることで大統領の歓心を買う戦略を取った。

 2019年、同社パソコン最上位機種「Mac Pro(マックプロ)」の生産をテキサス州に「戻す」と発表し、トランプ氏を工場に招待。トランプ氏は「主要な新工場を開設した」と自身の成果をアピールした。

 だがこれは、実際には2013年から稼働していたニッチな製品の工場だった。クック氏は、このトランプ氏の発言(事実誤認)をあえて訂正しなかった。

 今回も同様の手法を展開した。

 クック氏は8月、ホワイトハウスでトランプ氏の隣に立ち、今後4年間で米国への投資を6000億ドル(約92兆円)に増額すると発表した。

 この発表を受け、トランプ氏はアップルを輸入電子機器への関税対象から免除する方針を示した。

 関係者によれば、この巨額投資の多くは、iPhoneのカバーガラスを製造する米コーニングへの25億ドル(約3800億円)の追加投資など、すでに計画されていた支出を「再パッケージ化」したものだ。

 iPhoneの最終組み立てを米国に戻すという本質的な約束は含まれていない。

 これは、政権が求める「製造業の国内回帰」の体裁を整える見返りに、関税免除という実利を得る「ペイ・トゥ・プレイ(カネで参加権を買う)」ともいえる巧みな駆け引きだった。