中国を刺激しかねない原潜建造とファクトシートの文言

 実際、原子力潜水艦の建造が実現するまでには、今後数多くの法的・技術的障壁を取り除いていかなければならない。

 まず、原子力潜水艦が建造されても燃料の供給を受けるためには、軍需品と防衛関連技術の海外移転を制限する国際兵器取引規定(ITAR)の緩和が必要だ。

 また韓国政府は韓国での建造を前提に協議していると主張しているが、JFSには「米国は韓国が核推進潜水艦を建造することを承認した」とだけ明記されており、建造場所が言及されていない。つまり、これに対する米韓間の異見が存在するという意味だ。

 米「ブルームバーグ」紙も、「JFSでは原子力潜水艦の建造などに言及しながらも追加的な細部事項が出ていない」とし、「多くの争点が依然として解決されていないことを示唆する」と分析した。

 原子力潜水艦の建造合意を契機に韓国側はウラン濃縮と使用済み核燃料再処理のための「米韓原子力協定改正」の期待感を示したが、JFSでは「米国の法的要件を遵守する範囲内で」を前提条件にしただけで、改正可否に対する確答はない。

 ちなみに現行の協定は2015年に改正されたもので、「韓国は米国の事前同意の下で核兵器として使用できない低濃縮ウラン(20%未満)の製造が可能で、使用済み核燃料の再処理は“研究目的”に制限」されている。

 韓国が米国に中国牽制に参加することを約束した部分については、李在明政権になってようやく回復の兆しを見せている中韓関係に悪影響を与えかねないという憂慮が出ている。

 JFSには「中国」という単語は含まれていないが、「米国と韓国は、北朝鮮を含む同盟へのあらゆる地域的脅威に対して、米国の通常戦力による抑止態勢を強化」「航行・飛行の自由、国際海洋法遵守の重要性を確認」「台湾海峡での平和と安定維持」「両岸問題の平和的解決を促し、一方的現状変更に反対」等、対中牽制を暗示する文句が随所に含まれている。