対立が固定化され、気候外交がブロック間取引化する恐れ

 化石燃料依存VS脱化石燃料、先進国VS新興・途上国という対立構造は昔からある。トランプ氏の復活が政治的な歯止めを取り除いたため、反気候陣営が大胆・強硬になり、COP30で分断が史上最も可視化したと言えるだろう。

 産油国にとり脱化石燃料は国家存亡に関わる死活問題。石油・天然ガス収入は政府歳入の大半を占め、貿易黒字の源泉で、雇用や国内投資のエンジンでもある。段階的廃止は単なる環境規制にとどまらず、国家財政・支配構造の根本に手を突っ込まれたのと同じだ。

 一方、気候危機に直面する島嶼国にとっても生存と主権がかかっている。COP30の閉幕では「地政学的な大崩壊をギリギリ回避した最小限の前進」「巨大な失望の上に成り立つ最小多数の最小幸福的妥協」という皮肉の声が聞かれた。

 分断が明らかになったものの成果文書がまとまったことで多国間主義は辛うじて延命した。ベレンはトランプ現象が吹き荒れる中、ギリギリ踏みとどまれたCOPと位置づけることもできる。しかし今後、対立が固定化され、気候外交がブロック間取引化するかもしれない。

 EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)、電気自動車(EV)関税、グリーン産業補助金を巡り、欧州VS中国、EU対グローバルサウスの対立構図が激化し、気候外交は協力より関税・サプライチェーン再編・資源外交が火花を散らす恐れすらある。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。