AIによる第3の防壁

 2024年の統計では、クマによる人的被害は全国で200件を超え、死者も複数人に達しました。過去10年間で最も深刻な数字で、これは世界的に見ても異常です。

 従来の対策、例えば電気柵や罠、警報器、見回りだけではもはや限界があるという現実が浮かび上がっています。

 こうした中、AIによる予測・検知・通知システムが「第3の防壁」として注目されています。

 従来の防護柵が「物理的な壁」、人による見回りが「人的な壁」だとすれば、AIは「知能的な壁」と言えるでしょう。

 例えば、秋田県では大学の研究チームがAIを使ってクマ出没の時期と場所を予測する実験を行っています。

 過去の出没データ、気温、木の実の豊凶、標高、森林密度といった要素を組み合わせ、クマが現れやすいエリアを事前に警戒する仕組みです。

 予測結果は地図上に表示され、自治体や住民に警報を発することができます。この仕組みにより、住民が早めに外出を控えたり、農作業を中止したりといった行動判断ができるようになりました。

 また、AIカメラでクマを自動識別する技術が実用化されています。

 人やイノシシ、犬などと区別し、クマだけを検出すると回転灯やスピーカーで警告を出す仕組みです。

 既に中部地方の一部自治体で設置が進み、誤検知率を低く抑えつつ高い効果を上げています。