街に慣れたクマは駆除するしかないのか?

──街に慣れたクマは、やはり駆除せざるを得ないのでしょうか。

小池: 人の命と生活を守るためには、残念ながらそうなります。クマは記憶力が非常に良く、一度でも「人里でおいしいものを食べた」「人は襲ってこない」と学習してしまうと、再び必ず出てきます。

 さらに、人が持つ食べ物を「奪える」と学習した瞬間から、人を攻撃対象として認識するようになる可能性もあります。したがって、一度でも人間の活動域に踏み込んでしまった個体は、基本的に駆除せざるを得ない。

 ただし、問題の本質は別にあります。放置された柿や栗、管理されない果樹園など、クマを呼び寄せる誘因物が集落のあちこちにある限り、同じことが繰り返されます。まずはこれらの除去が不可欠です。

クマと人の境界を再び作る「ゾーニング管理」

──出没しやすい地域の特徴はあるのでしょうか。

小池: ツキノワグマについては、森に隣接している地域であればどこでも出没し得ます。

 つまり誘因物の除去と合わせて、クマを山側へ押し戻す対策が必要だということです。もっとも重要なのは、クマの生息域と人の生活域を地理的に「分ける」ことです。これを「ゾーニング管理」と呼びます。

 例えば、手入れがされておらず、藪のようになっている森は、クマにとって「居心地の良い環境」です。姿を隠しながら簡単に集落に近付けますし、じっとしていても人に見つからない。そういった森の藪を刈って見通しのよい状態にして、人とクマの生活圏を遮る緩衝帯(バッファー)を整備することも「ゾーニング管理」の手法の一つです。

 集落の周囲を人工林にしてクマの食べ物が全くない環境にする、というのも有効な方法です。きちんと施業している人工林の場合は、下草刈りもされますので、見通しも良い。

 ソフト面の対策としては、クマ専門の捕獲従事者が集落の周囲の森で見回りをして、クマが人里のほうにやってきた場合に追い掛けまわすといったことが必要とされます。「ここより先へ行くといつも人に追われる」という体験をクマに繰り返させることで、失われたクマと人間との緊張関係を取り戻すのです。