人を怖がらないクマが増えているのは本当?

──「最近のクマは人を恐れず凶暴化している」という声もあります。

小池:クマが「人に慣れてしまった」という可能性はありますが、「凶暴化」とは少し違います。

 これまで街に出たクマは、パニックを起こす様子がよく見られました。しかし最近は、住宅地で落ち着いて歩き回るクマの映像が報道されています。人が「そこにいるのが当たり前」という環境で育った個体が街に出ている可能性があります。

 もし人が何もせずにその場をやりすごしてしまうと、クマは「人は危害を加えない」と学習する。結果、人間の存在を気にかけなくなる。これが今の状況です。

「街に通う」行動はどのように身につくのか

──クマが人間の活動域に入る行動パターンは、どのように形成されているのでしょうか。

小池:クマは基本的に単独行動で、仲間同士でエサの場所などの情報交換をすることはありません。ただ例外があります。子育て期間中の母グマです。

 母グマは出産後約1年半、子グマを連れて行動します。その母親が街に慣れてしまっている場合、「森に食べ物がないときは街へ行けばいい」と子に教えている可能性が十分にある。

 残念ながら、多くの自治体では出没した個体や駆除された個体の性別・年齢・遺伝情報などを一元管理していません。科学的根拠が不足しているため推測の域は出ませんが、行動学的には十分起こり得るシナリオです。