クマと人は「共存」できない
──クマと人間の共生について、今後はどのように考えていけばいいのでしょうか。
小池:私は「共生」という言葉は使わないようにしています。「共生」は、複数の生物が同じ場所で相互に作用しあい、必要とする状態で生活することを意味しています。
クマと人間は「共生」の関係ではありません。クマは人間が存在しなくても生きていくことができます。そのため「共存」という表現の方が適切です。
ただ、共存といっても人とクマが同じ空間、同じ時間帯に共存することはできません。繰り返しにはなりますが、やはり、クマと人間の住み分けが必要です。
1980年代から1990年代は、地域的にクマが絶滅するかもしれないという時代でした。特に、西日本ではそのような傾向が顕著に見られました。
その中で日本は、クマを獲り過ぎないようにして、個体数を回復させようという方針をとってきました。しかしその結果、クマは増えすぎ、生息域も広がってしまった。
当然、動物が増えれば人間との軋轢も増えますし、減れば絶滅してしまう可能性もあります。今、必要なのは「どこならクマがいてよいのか」「個体数がどれくらいであれば人間社会が許容できるのか」を社会全体で議論することです。
SNSでは「クマなんて絶滅してしまえばいい」というような極端な意見も見られますが、重要なのは「人とクマが共存できる領域」の合意形成です。これまでの「増やすだけ」の時代から、分布域を縮小させ、数を減らすという選択肢も含め、適切に管理していく時代へ確実に移行しています。
人間とクマの関係は、今まさに転換期にあります。私たちの側が、付き合い方を変えていかなければならないのです。
小池 伸介(こいけ・しんすけ)
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授
1979年、名古屋市生まれ。2001年、東京農工大学農学部地域生態システム学科卒業。2008年、東京農工大学大学院連合農学研究科資源・環境学専攻博士課程修了。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における植物-動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
