料金高騰が続いている理由
たとえば冒頭で紹介した、NFLをオンライン視聴するコストの上昇について、ワシントンポスト紙は「放映権料の高騰」を挙げている。つまりNFLの試合をライブ配信するための権利料が高額で、Amazon、ESPN、Netflixなどの配信企業は、巨額の投資を取り戻すためにサブスク料金を上げざるを得ないというわけだ。
実際に今年8月の報道によれば、NFLが2021年に各社と締結した契約における年間の放映権料は、ESPN/ABC(ディズニー)が年間約27億ドル、FOXが年間約22億ドル、CBSが年間約21億ドルなどとなっている。つまり各社、3000億円以上を支払っているわけだ。
重要なのは、これがNFLという1つのスポーツ団体のみに支払われた金額という点である。米国におけるNFL人気は異常なものがあるとはいえ、他のスポーツのトップリーグの試合についても、同様に高額の放映権料を請求されるケースが増えている。複数のメジャースポーツを配信するサービスでは、当然ながらその分出費がかさむことになる。
また放映権料だけでなく、ライブ配信を実現するインフラの構築・維持にも大きなコストがかかる。たとえばAmazonは、同社のPrime VideoサービスでNFLの人気試合のライブ配信するために大規模インフラを構築しており、毎週1000万人以上というアクセスに対応するために、100以上のクラウドサービスを組み合わせている。
スポーツのライブ配信を手がける企業は、単に放映権を手にすれば良いのではなく、「いつ・どこで・どの端末で見られても遅れない・途切れない」という高品質な視聴体験を提供するために、クラウド・CDN(コンテンツ配信ネットワーク)・多言語対応・ネットワーク帯域確保などに多額の予算を投じなければならず、これが視聴料金やサブスク料金の上昇圧力となっている。
DAZNの料金上昇についても、同じ構造が存在する。
2023年の料金改定の際、DAZN JapanのExecutive Vice Presidentを務める山田学氏が、「プレミアムなスポーツコンテンツを維持し、増やしていくにはそれなりの投資が必要で、配信テクノロジーにも大きな投資をしている。収益化に向けて、プレミアムコンテンツにふさわしい価格を常に模索している」と説明した。
現在のSTANDARDプラン月額4200円への改定の際も、DAZN JapanのCEOである笹本裕氏が、「ビジネスを永続的にしながら、成長投資もするための価格設定であるということです。我々は年間では7700試合以上をライブ配信していますが、コンテンツに対しての投資も、技術に対しての投資も着手しています」と同様の発言をしている。
放映権の確保と配信インフラの構築・維持のために、配信サービス側は料金設定を上げざるを得ない。一方の視聴者側は、配信サービスの増加・細分化がもたらすコンテンツの分散によって、複数のサービスと契約せざるを得ない。こうした要因が相まって、「スポーツを見るのにカネがかかる時代」が到来しているというわけだ。