セックス・ピストルズの風刺は処罰対象か

 例えば、1970年代の英国のパンクバンド、セックス・ピストルズ(Sex Pistols)は、「God Save The Queen(女王陛下万歳)」という曲を発表した。もちろん英国国歌「God Save The King」へのオマージュであり、強烈な風刺である。

 そのレコードジャケットや関連デザインでは、英国国旗が引き裂かれたり、安全ピンで留められたり、女王の写真の目や口が国旗や文字で塞がれたりしていた。これは明らかに英国王室と体制に対する痛烈な風刺であり、見方によっては「侮辱目的」と解釈されかねない挑発的な表現だ。

セックス・ピストルズ「God Save The Queen」のデザイン(写真:REX/アフロ)
セックス・ピストルズ「God Save The Queen」のデザイン(写真:REX/アフロ)
セックス・ピストルズ「God Save The Queen」のデザイン(写真:AP/アフロ)

 しかし、これはロックの歴史における最も象徴的なデザインの一つとして、今なお世界中で流通し、Tシャツなどの意匠としても多用されている。

 もちろん日本でも流通した。英国政府はどうしたか。もちろん日本政府に刑法第九十二条の適用を求めたりはしていない。我々が学ぶべきは、そのような成熟した寛容な自由民主主義社会のあり方かもしれない。

 日本でも、ラッパーがミュージックビデオで日の丸に囲まれてパフォーマンスを行ったり、アーティストの椎名林檎氏がかつて旭日旗をモチーフとしたデザインを使用したり、そうした表現が物議を醸したことがある。

 これらの芸術的表現が、もし「国旗損壊罪」や「国章侮辱罪」が存在する社会で行われた場合、どうなるか。アーティストやデザイナーは、「これは侮辱にあたるのではないか」と自粛しかねない。政府に批判的なデモにおいて、国旗を風刺的に使用すること自体がためらわれるようになるかもしれない。

 典型的な萎縮効果である。法律が曖昧な基準で表現行為を罰する可能性を示すと、人々は処罰を恐れて、本来は憲法で保護されるべき正当な表現行為までも手控えてしまうことが知られている。その結果、社会から多様な意見や自由な(時には過激で不快な)表現が失われ、窒息してしまうことが危惧される。