企業再生支援機構委員長として記者会見する瀬戸英雄弁護士=2010年3月(写真:共同通信社)
「失敗してもやり直しができる社会」を目指した瀬戸弁護士
翻って日本の社会は「失敗」を極端に嫌う。三振しない打者が良い打者とされ、一発狙いのフルスイングを推奨する指導者は少ない。ビジネスでも同じ考え方が根付いており、出世するのは「結果を出した者」ではなく「失敗しなかった者」であることが多い。結果を出す前に「失敗」すると、そこで出世の道が閉ざされてしまうからだ。
「失敗」は敗北ではなく、ましてや犯罪ではない。そこから何かを学び、成長するから「失敗は成功の母」なのだ。失敗を許さない社会は息苦しい。失敗を恐れて挑戦を見送っているうちに若者は歳をとり、かつての情熱を無くしてしまう。
本書の主人公、瀬戸英雄は「失敗してもやり直しのできる社会」の実現を目指して数々の大型倒産に携わってきた倒産弁護士だ。JALの再生は倒産後に同社会長に就任した名経営者、稲盛和夫の武勇伝として語られることが多い。だが、その稲盛をもって「ワシが乗り込んだ時には面倒な話は大方、片付いていた。全部あの人がやったんや」と言わしめたのが「修羅場の王」瀬戸である。
瀬戸は会社更生法を「金剛の盾」に、「自分たちだけは助かろう」とする既得権者たちをねじ伏せ、JAL再上場への道筋をつけた。それは「カリスマ」の一言で語れるような単純な物語ではなく、法律に精通したプロフェッショナルたちの気の遠くなるような実務の積み上げであった。




