更生手続きを終えて「復活の翼」を手に入れたJALは2012年9月、倒産から2年8カ月という短期間で再上場を果たした(写真:共同通信社)

倒産という「修羅場」で事業経営一切を握る「管財人」

 2010年1月19日、JALが東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請し、事実上、倒産した。負債総額は事業会社として当時過去最大の2兆3200億円。前ページの抜粋は、会社更生法が適用された場合、管財人になる予定だった企業再生支援機構の幹部と、金融債権を87.5%カットされることになる3メガバンクの頭取の、倒産前夜のやり取りである。

 3行のJALへの融資残高は合計で約1200億円。会社更生法の適用が決まれば、その9割近くを放棄させられることになる。頭取たちが、血相を変えて適用に反対したのは言うまでもない。

 倒産は「修羅場」である。

 銀行は融資した金を踏み倒され、100%減資となれば株主が持つ株式は紙屑になる。会社更生法なら経営陣は総退陣を迫られるのが慣例で、従業員も大幅削減される。会社に関わる全てのステークホルダーに激しい痛みを強いるのが倒産だ。極限状態の中で、会社に関わる全ての人々は「自分だけは助かろう」と欲望を剥き出しにする。

 そんな「修羅場」ど真ん中に降り立つのが「管財人」だ。

【更生手続き開始の決定があった場合には、更生会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した管財人に専属する】

 会社更生法第72条に定める管財人の権限である。倒産して更生手続きに入った会社は、管財人が「いい」と言わない限り、一切の支払いを禁じられる。倒産会社にお金を貸している銀行や取引先は、ビタ一文、貸した金を回収できない。

 事業経営の一切を任されている管財人がまとめる「更生計画」に、倒産会社の幹部は従うしかない。「人員を減らす」と言われれば労働組合も逆らえない。会社の社長はもとより、メーンバンクの頭取も、大株主も、労組の委員長も逆らえない。管財人が「修羅場の王」と呼ばれる所以である。