——山下さんが最初の社員となり、後に社長を務めた三菱商事太陽は、ソフトウェアの開発などを手がけるIT関連の企業ですよね。

山下:太陽の家としては、それまでの製造業から、頭脳労働分野への進出を目指して設立した共同出資会社です。中村先生は、ソフト開発などIT関連は手足にハンディがあってもできる仕事で、将来はパソコンの時代になって在宅就労もできるようになる、そう考えて私たちのような重度の障がいがある人たちの職場を目指して設立されました。

 当初は従業員10人でスタートして、「将来は50人規模にしたい」と中村先生は話していました。それが今では120人まで増えて、そのうち6割を何らかの障がいのある従業員が占めています。まだテレワークの言葉もなかった時代に、先見の明があったと思います。

法定雇用率は上昇したものの、「企業は直接雇用を」

——太陽の家では現在、大分県内と愛知・京都に7社の共同出資会社があるほか、協力企業の事業所などがあります。在籍者数は障がいのある利用者や社員、職員が1100人あまりで、障がいのない職員が760人です。現状ではどのような課題がありますか。

山下:就労支援には、一般企業や共同出資会社、協力企業などへの移行をめざす人に技能や技術の習得を支援する就労継続支援A型と、適性や障がいに応じた作業による就業の場を提供する就労継続支援B型の事業所があります。最近は就労継続支援B型の採用活動が難しくなっています。

 なぜなら、企業には障がいのある従業員数の一定割合を雇う法定雇用率の達成が課されていますおり、障がいのある人は売り手市場になっているからです。職業訓練をして、ワンクッションを置いて雇用につなげるよりも、企業が直接採用する方が主流になっています。また、地元の別府市は11万人あまりの人口にもかかわらず、B型の施設が約40カ所もあり、就労継続支援B型の施設が増えていることも一因です。

——法定雇用率の引き上げはこの60年での大きな変化だと思います。現在では従業員40人以上の企業に2.5%が義務付けられていて、2026年7月からは37.5人以上の企業に2.7%が義務付けられることが決まっています。法定雇用率の引き上げについては、どのように感じていますか。

山下:私は雇用率という言葉が好きではありません。雇用率がだんだん上がっていくにつれて、企業も力を入れてはいます。ただ、雇用率を満たすことだけが目的になっている企業が多いですよね。