槵觸神社と荒立神社
神話の里めぐり、二つめのスポットは槵觸神社。見慣れない文字だが、槵觸は「くしふる」と読む。アマテラスオオミカミの孫であるニニギノミコトが天から降臨した際、降りたところが「槵觸の峰」。この神社はその槵觸山の中腹にあり、もともとは山そのものをご神体としていたのだが、1694年に社殿が建てられた。
御祭神はニニギノミコト及び国造りに功績があった四柱の神々。境内には相撲の土俵があるが、それは祭神の一柱であるタケミカヅチノミコトが相撲という神事の開祖とされるからだ。ここで天孫降臨に先立つ国譲りの神話を思い出してほしい。タケミカヅチノミコトはアマテラスオオミカミの命により出雲に派遣され、オオクニヌシノミコトに国を譲るように迫った。それに抵抗するオオクニヌシノミコトの次男タケミナカタノミコトと闘って勝ち、国譲りに成功した。これが相撲のルーツである。
そのためこの神社の秋大祭では相撲大会も行われ、赤ちゃん同士の泣き相撲なども大人気と聞く。この神社の南に小高い丘があり、そこに高天原遥拝所もある。地上に降臨した天孫と同行した神々がこの丘の上に立って高天原を遥拝したと伝わっている。神々の国である高天原を見晴らす場所まであるとは、高千穂おそるべし。
三つめのスポットは荒立神社。こちらは天孫降臨の際にニニギノミコトを案内したサルタヒコノミコトとアメノウヅメノミコトを祀っている。アメノウヅメノミコトと言えば、前述の岩戸開き神話でセクシーなダンスを踊った大スターであるが、実は天孫降臨にも同行して大きな役割を果たしている。
天孫一行が天下ろうとしたとき、高天原から下界までを照らす奇妙な姿の神が現れた。アメノウズメノミコトはアマテラスオオミカミから「か弱い女でありながら、相対する者に気後れしない性質のおまえが行って、あれは何者か聞いてきなさい」と命じられ、またしても胸をあらわにした姿で威嚇するようにその姿の神の前に立った。神世の昔にも、こんな気丈で仕事のできる女がいたのである。
その奇妙な神はサルタヒコと名乗り、天孫を案内するためにやってきたと告げた。かくして天孫一行はめでたく槵觸の峰に降り立つことができたのだが、もうひとつ、とてもめでたいことがあった。サルタヒコノミコトとアメノウズメノミコトが結婚したのである。
この二柱は互いのどこに惹かれたのだろう。サルタヒコはアメノウズメの色気ときっぷの良さに惚れ、アメノウズメはサルタヒコの頼りがいのあるところに魅力を感じたのだろうか。いずれにせよ、神話の中でも最高にお似合いのカップルではないかと思う。荒立神社はこの二柱が新婚時代を過ごした場所とされ、芸能の神として、また、縁結びの神として信仰されている。
これ以外にも、高千穂エリアには神話の舞台とされる神社や名所が数多い。あちこち歩いているうちに、登場する神々がまるで実在の人物のように、そして神話のすべてが本当にあった出来事のように思われて来るから不思議だ。季節を変えて何度も訪ね、神々の世界で心ゆくまで遊んでみたい。



