高千穂神社 本殿 写真/GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート
(吉田さらさ・ライター)
昼夜で二度訪れるべき神社
猛威をふるった灼熱の夏もようやく終わりを告げ、旅に適したシーズンがやってきた。今回は神社めぐりだけでなく、伝承文化を鑑賞し、紅葉見物や観光も楽しめる高千穂エリアをご紹介しよう。ここは神話好きなら一度は訪れたい場所である。
古事記や日本書紀の中でももっとも重要な場面のひとつ、「天孫降臨」の舞台とされるからだ。高天原(神々の世界)の主であるアマテラスオオミカミの孫ニニギノミコトは、地上の世界を治めるべく、葦原の中の国(人間界)に降臨した。その際ニニギノミコトが降り立った場所は日向(宮崎県)の高千穂だ。
まさに今回ご紹介するエリアがそれに当たるのだが、実はそれ以外にもうひとつ有力な候補地がある。宮崎県と鹿児島県にまたがる高千穂峰だ。その麓には霧島神宮という立派な神社もあり、山頂にはニニギノミコトが突き刺したと伝わる天逆鉾もある。この天逆鉾に関しては新婚旅行で訪れた坂本竜馬が試しに引き抜いたという話もあり、実に興味深い。しかし、同じ高千穂という名がついても今回ご紹介する高千穂とはかなり離れた場所なので、また次の機会に訪れることとしよう。
今回の目的地である宮崎県の高千穂町は、九州のちょうど真ん中あたり。高千穂峡というこの世のものとは思われない絶景の観光地もあり、天孫降臨などの神話にまつわる神々を祀る神社が無数にある。その中心として鎮座するのが高千穂神社だ。周辺にはいくつかの宿泊施設と商店が並んでいるが、かなりな山奥だ。車がないと来られないかと思いきや、実は福岡からの直通バスもある。ぜひ一泊して、神々の里をじっくり楽しんでいただきたい。
高千穂神社は、昼夜で二度訪れるべき神社である。まずは昼間に参拝する。少し高台にあり、すがすがしい風が吹き渡る境内だ。約1900年前の垂仁天皇時代に創建され、主祭神は高千穂皇神(たかちほすめがみ)と十社大明神。高千穂皇神は日向三代とその配偶神(奥さん)の総称である。日向三代とは日向の神話の中心となる三代の神々、ニニギノミコト、その子ヒコホホデノミコト(山幸彦)、さらにその子ウガヤフキアワセズノミコト(初代神武天皇の父)。この三柱とそれぞれの奥さんであるコノハナサクヤヒメ、トヨタマヒメ、タマヨリヒメの三柱を合わせたのが高千穂皇神ということだ。
十社大明神は、ミヌケノカミ(神武天皇の兄)とその妻子神の総称である。つまりこの神社には、高天原の神と天皇の間をつなぐきわめて重要な神々が祀られているのだ。
高千穂郷に八十八社ある神社の総社でもあり、農産業・厄祓・縁結びの神をして幅広く信仰を集めている。神社本殿は江戸時代前期の建立で国の重要文化財、所蔵品の鉄製狛犬一対は鎌倉時代に鋳造されたもので、源頼朝の命により畠山重忠が代参して奉納したと伝わり、当時は鉄を複雑な形に鋳造するのが難しかったため、ここまでよくできた鉄製の像はたいへんな貴重品。これもやはり重要文化財に指定されている。拝殿の内部にあり通常は見ることができないのだが、ガラスごしに覗くと、一部が見えるようになっている。実にご親切な計らいだ。