天岩戸神社 写真/Spuyan/イメージマート
(吉田さらさ・ライター)
天岩戸が御神体の神社
今回は、前回の記事に引き続き、宮崎県北部の人気観光地、高千穂エリアをご案内する。長年にわたって全国各地の聖地を歩いてきたが、神話の舞台とされる場所がこれほど密度濃く点在するところは他にない。前回は、高千穂郷八十八社の総社である高千穂神社とそこで毎晩開催される高千穂神楽について書いたが、今回の記事では、高千穂郷の神社の中から特に神話とかかわりが深い三つの神社をクローズアップ。日本神話の世界観をより深く、じっくり味わうコースである。
最初に訪れるのは高千穂峡から岩戸川と呼ばれる川をさかのぼったところにある天岩戸神社だ。その名のとおり天岩戸そのものをご神体とする。今さらではあるが、念のために、古事記における最大のクライマックス「岩戸開きの神話」について簡単におさらいしておこう。
高天原でもっとも尊い神であるアマテラスオオミカミは、弟スサノオノミコトの乱暴狼藉に悩んで天岩戸に隠れてしまわれた。光が失われ、世界は闇に閉ざされた。困り果てた神々は天安河原(あまのやすがわら)というところに集まって相談をした。すると知恵の神オモイカネノミコトがよい計画を思いついた。
まず常世の長鳴鳥を連れてきて鳴かせ、夜が明けたかのように見せかける。続いてアメノウヅメノミコトがおもしろおかしい踊りをし、神々は楽しそうに大騒ぎをした。すると、アマテラスオオミカミは何事が起きたのかといぶかしんで岩戸を少し開いた。
すかさず前もって準備してあった鏡を見せ、「このように尊い神が現れたので皆喜んでおります」と言うと、アマテラスオオミカミはその神(実は鏡に映った自分の姿)をよく見ようとさらに岩戸を開いた。その瞬間、力自慢の神タヂカラオノミコトが岩戸を放り投げてアマテラスオオミカミを引っ張り出した。すると世界には再び光が戻った。
天岩戸神社とその周辺には、この興味深い話の舞台とされる場所がいくつかある。他の地方にも天岩戸とされる洞窟はいくつか存在するのだが、こちらほど物語の要素を体感できるところはなく、古事記ファンなら一度は行きたい聖地である。