家族のブランドを高める音大卒の肩書き

 韓国の富裕層の妻たちには、驚くほど“音大卒”が多い。李在明大統領の夫人もそうであり、新世界グループのチョン・ヨンジン会長の妻も音大出身で大学院まで出ている。筆者が仲良くしている医師夫人もピアノ科の卒業生だ。

 こうして並べてみると、偶然とは思えない。言ってしまえば、彼女たちにとって音楽は、職業ではなく、家柄を飾るための装飾なのだ。

 初めは演奏家を夢見て、音楽を学び始めたかもしれない。しかし「○○音大卒」というブランドは、夫の社会的地位を補強する“文化資本”になっている。

 音楽的テクニックよりも、学歴と品格の象徴としての音楽専攻者の肩書き。さらに近年では「妻も自己実現のために仕事を持つべきだ」という言葉が流行しているが、そこには経済的余裕を前提とした“見せる教養”の要素の方が強い。

 特に李在明大統領夫人は、ピアノ科卒にもかかわらず、料理レシピ本を出版している。前回、石破前首相との会談のために李在明大統領と共に来日した際には、なぜか日本人に韓国語を指導していた。ピアノはあまり関係ないようだ。

 日本もそうなのかもしれないが、韓国では子どもにピアノやヴァイオリンを習わせることが、上流教育の一部とされる。そして英語は必須中の必須である。

 こうして見ると、音楽は生計を立てるための手段ではなく、階級を示すシンボルのように扱われているという筆者の指摘もあながち的外れではあるまい。音大に進み、大学院に進むのも、必ずしも芸術を深めるためではない。むしろ「音大大学院修了」という肩書きが、家族全体のブランドを高める。そんな社会的演出の一環に過ぎない。

 その一方で、イ・ヒョク氏のように“本物の音”を追求する韓国人アーティストもいる。