オーディションでサチ役に抜擢されたのは中川未悠。2017年、21歳の時に性別適合手術を受けるまでを記録したドキュメンタリー映画『女になる』に出演しているが、演技は未経験。『女になる』でも観ているうちに誰もが彼女を身近に感じて、行く末を案じてしまうように、この『ブルーボーイ事件』でも彼女の溢れんばかりの魅力が作品をより豊かなものに昇華させている。

ⓒ2025『ブルーボーイ事件』製作委員会

俳優たちのセリフと演技から滲み出るLGBTQの苦悩と本音

 1965年、オリンピック景気に沸く東京。街の浄化を目指す警察は、セックスワーカーたちを厳しく取り締まるが、ブルーボーイと呼ばれる者たちの存在が警察の頭を悩ませていた。

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 戸籍は男性のまま、女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にはならない。そこで彼らはブルーボーイたちに手術を行っていた医師を逮捕し、裁判にかける。

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 その頃、喫茶店で働く女性サチは、恋人からプロポーズを受けていた。彼女もまた、手術を行った患者のひとり。今の生活を壊したくないと一度は証言を拒んだものの、やがて証言台に立つことを決意する。が、検事の侮辱的な尋問の数々に言葉を失う。

ⓒ2025『ブルーボーイ事件』製作委員会
ⓒ2025『ブルーボーイ事件』製作委員会

 いじめられた子ども時代、思った仕事に就けなかった過去、女性として生活するうち、出会った恋人。作品の見どころはサチの証言台での告白だが、どこまでがサチで、どこからが中川自身の言葉なのか、演技とリアルの境界線の見分けがつかない。初々しく純朴そうな彼女の姿に最初から最後まで魅了される。

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