ⓒ2025『ブルーボーイ事件』製作委員会
トランスジェンダーを公表した俳優として初めて、カルラ・ソフィア・ガスコンは今年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされた。主演映画『エミリア・ペレス』はメキシコの麻薬王の男性マニタスが性別適合手術を受け、エミリア・ペレスという女性として、新たな人生を送ろうとする物語で、ガスコンは手術前後を演じている。
2018年、映画で実在したトランスジェンダー男性を演じる予定だったスカーレット・ヨハンソンがLGBTQコミュニティなどから、猛反発を受け、降板した。2020年はハル・ベリーが辞退。
『リリーのすべて』(2015)では世界初の性別適合手術を受けた主人公をエディ・レッドメインが演じ、アカデミー主演男優賞にノミネートされた。これまで多くの俳優たちが挑んで、話題を呼び、評価されてきたトランスジェンダーの役。単なる異性装になっていないか。トランスジェンダーを演じることに徹していないか。度々、キャスティングが論議を巻き起こす。数少ないトランスジェンダー俳優の出演の機会を奪うべきではない。当事者でなければ演じられないのか。
トランスジェンダーの監督、トランスジェンダーの俳優
『ブルーボーイ事件』を観れば、答えは一目瞭然だ。飯塚花笑監督は「この物語を描くには当事者によるキャスティングが絶対に必要」と主人公・サチ役のために、様々な経歴を持つトランスジェンダー女性たちを集め、オーディションを行なった。
ブルーボーイ事件とは1960年代、当時ブルーボーイと呼ばれていた、戸籍上は男性の20代の男娼3人に対して、性別適合手術(当時は性転換手術)を行った医師が麻薬取締法違反と優生保護法違反で逮捕された事件。
ⓒ2025『ブルーボーイ事件』製作委員会
ⓒ2025『ブルーボーイ事件』製作委員会
監督はその頃の社会状況と事件について徹底的に調査し、裁判での証言を決意したトランスジェンダー女性・サチを主人公に物語を構想。何年もかけ、何度も脚本の改訂を重ねて、オリジナル作品として完成させた。飯塚監督は以前、紹介した『フタリノセカイ』(22)をはじめ、自身がトランスジェンダー男性であるというアイデンティティを反映した作品作りで注目されている。
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