作者の中沢啓治とその妻・ミサヨ(C)BS12 トゥエルビ
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広島の原爆で家族を失った少年ゲンが、様々な苦難と戦いながら戦後の次代を生き抜く姿を描いた漫画「はだしのゲン」。戦後生まれの子どもたちにとって、原爆のむごさ、被爆者の苦難などを知る身近な“教科書”でもある。ところが近年、「描写が過激」などとして学校図書館で閉架措置がとられたり、逆にそうした動きを批判する声が上がったりするなど、「ゲン」を取り巻く状況が大きく動いている。連載開始から50年以上が経ちながら、今も日本社会を揺り動かす「はだしのゲン」。そのエネルギーの元に迫った映画『はだしのゲンはまだ怒っている』を、ジャーナリスト・横田増生氏がレビューする。(JBpress編集部)

戦後80年経った今も…

 漫画『はだしのゲン』の主人公であるゲンは、随所で怒りを爆発させる。その怒りこそが、原爆が落とされた後の混沌とした広島で生き延びる原動力となっている。

 怒りの矛先は、進んで軍国主義のお先棒を担ぐ性根の腐った町内会長や、疎開先でゲンの母親に意地悪をしてゲンの一家が仮住まいをしていた住居から追い出そうとする因業ババア、被爆して包帯を巻かれ体中から蛆がわく親戚が早く死ぬことを願う家族――。

 ゲンの怒りは、原爆を落としたアメリカ軍の戦争責任や昭和天皇の責任問題にも斬り込む。

 米軍兵には、「おんどれら、戦争を利用して原爆の実験をした人殺しの恐ろしい犯罪者じゃ」「おまえら原爆をおとした罪をすなおにあやまれっ」と詰め寄る。

 漫画の中で母親が亡くなると、母親を背中に担いで東京に歩き出したゲンは、「天皇は戦争をすることを決定し日本人をなん百万人も死なせた戦争の最高責任者じゃ。お母ちゃんを殺した責任者じゃ。天皇はお母ちゃんに土下座してあやまるんがあたりまえじゃ」と激怒する。

 さらにゲンは、被害者である広島という視点にとどまらず、日本が中国やアジアにおいては加害者であった側面にも踏み込むという先進性も持っていた。

汐文社から発行された『はだしのゲン』全10巻(C)BS12 トゥエルビ

 そのゲンが戦後80年たった今もなお怒っているのだ、とこの映画は言う。