なぜ図書館や小中学校から『はだしのゲン』は締め出されたのか

 それだけを見ると、中沢啓治の反戦・反原爆の遺志は十分に遂げられているようにも思える。

 しかし、『はだしのゲン』は過去10年以上にわたって、各地の図書館や小中学校から締め出しの憂き目にあったり、おひざ元である広島市立の小中学校の平和教材からも削除されたりした。

 最も悪名高いのは、高知県松江市の教育委員会が2012年、右翼団体である在日特権を許さない市民の会、いわゆる“在特会”の男性の抗議を受け、一時的に“閉架措置”となったこと。

 問題視されたのは、中国大陸での旧日本軍の行動を描いたシーンで、中国人女性の首を切ったり性的暴行を加えたりする場面だった、と当時の新聞報道は伝えている。

 同市は翌年、閲覧制限を要請した手続きに不備があったとして、要請を撤回しているが、その後も、ゲンをめぐって同様の“歴史修正主義”的な動きが相次いで起こっている。

 映画に出てくる、元産経新聞記者の後藤寿一は、『はだしのゲン』には、歴史的に正しい記述と間違っている記述が混在している、と主張する。軍部の暴走で中国を侵略したというのは間違いで、本当はアメリカにはめられて日本は戦争に巻き込まれ、負けたんだ、と後藤は主張する。

 日本が真珠湾攻撃を仕掛けたことで日米戦争が始まったのではないか、という監督の問いにも「真珠湾攻撃も、アメリカにはめられたんだ」と語る。