海外で人気の「WAGYU」も流出

 植物の新品種を保護する国際ルールには、日本も加盟する1991年UPOV(ユポフ)条約がある。その規定によれば、海外で新品種を守るためには譲渡(販売)開始から4年(樹木の場合は6年)以内に相手国で出願申請し、育成者権を得なければならない。

 この条約では、第三者が育成者権の登録のない国や地域へ持ち出すことを止められない。開発から時間が経ってしまったため、シャインマスカットもイチゴのスカイベリーも、もはや登録できず、日本の知的財産を守れない。政府はこうした事態を繰り返さないように2020年度から農業知的財産保護・支援事業を始め、専門機関の設置も検討している。

 海外への流出は果物だけではない。

 2019年には所定の輸出検査をせず、和牛の精液と受精卵を中国に持ち込もうとした人物が家畜伝染病予防法違反で刑事告発された。

 和牛は黒毛和種、褐色(あかげ)和種、日本短角種、無角和種という4つの食肉専用種の総称だ。代表的な黒毛和種は「松阪牛」「近江牛」「神戸ビーフ」などの地域ブランドも生み出した。過去には和牛の精液や生体が輸出され、米国やオーストラリアでの「WAGYU」生産につながった。豪州産「WAGYU」は韓国や香港市場にも輸出されている。

 和牛などの畜産物には品種を知的財産として保護するユポフ条約のような国際ルールがない。そのため、流出を防ぐ法律を20年に成立し、契約違反の輸出を差し止めたり、精液譲渡などの記録を関係者に義務付けたりする対策を導入した。

 日本の高級果物や畜産物が海外市場でいかに魅力的か——、それは、一連の流出問題から明らかだ。中国での新品種の登録数が右肩上がりの一方、日本は減少傾向が続く中、付加価値の高い品種を知的財産として守り、輸出市場を開拓して収益に結びつける戦略が必要になる。生産、流通現場の意識改革も不可欠だ。

新品種の登録で圧倒的な伸びをみせる中国