大規模農家が考える「コメ政策の問題点」とは?(写真:中森農産提供)
長引く令和のコメ騒動。自民党総裁に就任した高市早苗氏も「食料安全保障の確立」を掲げるなど、コメに関する議論が収まらない。埼玉県や栃木県などでコメを中心に330ヘクタールの作付面積を持つ中森農産の代表の中森剛志氏(37)は「今のままの農業政策では、コメの生産体制が持たない」と危機感を強める。2017年に同社を創業し、8年で「メガファーム」に成長させた中森氏に、コメ政策の問題点を聞いた。(前編/全2回)
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
>>後編:日本に「農業版パランティア」を!大規模コメ農家・中森農産が描くニッポンのコメ復活戦略
「コメが足りなくなるはずがない」と信じた農水省
──「令和のコメ騒動」で明らかになったのは、コメの供給不足でした。農林水産省は一時、「コメが足りないことはない」としていましたが、結局「2024年産米は需要に対して生産が32万トン不足していた」と認めました。二転三転する政府の見解を、大規模農家の立場からどのように評価していますか。
中森剛志氏(以下、敬称略):やはり、約50年続いた「減反政策」で頭が凝り固まってしまい「コメが足りない(需要が急増し、供給が想定以上に減少した)」という事実を認められなくなっていたのでしょう。
農水省・農林族の頭の中は「コメは『余る』ものだ」「供給量を増やしすぎることで、米価を下落させてはならない」という考えが根強く、「コメの需要が急増した」というマーケットの事実に反応できないほど、対応力がなくなっていました。
──そうした中、農水省は2026年度の概算要求において「コメの需要に応じた増産の実現」を掲げています。
中森:以前から、「2030年ごろにコメ農家が加速度的に減り、『コメ余り』の状況が逆転して供給量が不足する」という予測は存在しました。日本のコメ農家の平均年齢が約70歳で、日本人全体の平均年齢が48歳くらいですから、当然と言えば当然の推計ですよね。
中森剛志(なかもり・つよし) 中森農産代表取締役 東京農業大学農学部卒業。農業研修を経て、2017年に「食料安全保障の確立」を企業理念として中森農産(株)を設立し、コメ、ムギ、ダイズ、ソバを生産。埼玉県・栃木県・島根県・山口県にて生産を行い、作付面積は合計330ヘクタールにのぼる。(写真:前列中央が中森氏)
ところが23年、24年ともにコメの生産量が需要量を下回っている。予想より5年ほど前倒しで「コメが足りなくなる」事態が到来したわけです。ここ2年の生産量不足は円安等による生産資材費の高騰や異常気象による製品歩留まり悪化など様々な要因がありますが、いずれにせよ、想像より早く「(手を打たなければ)構造的にコメが不足する」時代になりつつあります。