先物取引がコメ価格を押し上げた?写真は2024年夏のコメ先物取引開始を祝うセレモニーで鏡開きをする堂島取引所の有我渉社長(右端、当時)ら(写真:共同通信社)

コメ流通の「多重構造」が価格高騰を招いている──。2024年夏から続く令和のコメ騒動に関しては、小売チェーンや識者からこのような指摘がなされている。コメの流通は1995年に食糧管理法が廃止されて以降自由化が進み、最近ではJAを経由して市場に出るコメは全体の4割ほどで、残り6割は卸売業者や専門業者が集荷している。

物流、ロジスティクス、SCMに関するコンサルティングが専門のNX総合研究所の小林知行氏は令和のコメ騒動の主要因として「コメが今どこに、どれくらいあるか」が分からない仕組みになっていることを指摘する。また「堂島取引所でのコメ先物取引」との関連性も疑う。どういうことか。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

令和のコメ騒動が「不可解」な理由

──令和のコメ騒動には庶民から見ると不可解な点が多数あります。代表的なものは「生産量は増えたのに、在庫は不足し価格も高騰した」こと。2024年産のコメ収穫量は前年比2.4%増の679万トンでしたが、なぜか「スーパーにコメがない」「コメが異常に高い」という事象が発生しました。コメ不足と価格高騰の本当の理由は、どこにあるのでしょう。

小林知行氏(以下、敬称略):コメの流通の「不可視化」、つまり「今コメがどこに、どれくらいあるのか」が全く分からないサプライチェーンになっていることが大きいです。

 まず、現在の主食用米の2つの流通経路をおさらいしましょう。1つは、JAがコメを農家から集荷し、一次問屋→二次問屋→スーパー・飲食店など、という経路を辿るルート。生産量全体の約4割を占めています。

 2つ目に「集荷機能を持った問屋が直接農家からコメを買い上げる」というルート。これは全体の6割ほどを占めていて、小売店やスーパーまでの間に問屋が複数入っていて、非常に複雑なサプライチェーンになっています。

 コメ不足とコメ価格の高騰が同時発生した理由として考えられるのは、「2つ目のルートで、どこかの問屋が意図的に『売り渡し』を渋った」可能性です。

小林 知行 (こばやし・ともゆき) NX総合研究所 リサーチ&コンサルティングユニット1 ゼネラルマネージャー 早稲田大学卒業後、2005年鈴与に入社。大手小売業者を中心とした流通センター運営及び改善活動、新規・既存顧客への提案営業に従事。ミスミグループでは多品種の機械部品を扱う商社にて、国内外の在庫管理手法改善、流通リードタイム削減、グローバル基幹システム開発等のプロジェクトに尽力。2013年日通総合研究所(当時)入社。プロジェクト推進にあたっては、現状把握、課題設定、企画立案、実行完了迄をハンズオンで遂行するスタイルを取る。企画立案にあたっては、利害関係者との十分な調整、折衝を重ねながら納得感を高め、実行完了まで顧客と共に走り抜くことを目指す。

 そもそも、コメのような年に1回しか「旬」の時期がない商品において、旬以外の時期に価格が上がることはまずありません。令和のコメ騒動が発生した当初は、新米が出回る時期ではありませんでしたし、2025年に入ってからもコメは値上がりを続けています。

 では、なぜ問屋は意図的に売り渡しを渋ったのか。