
(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
開店前だというのに、スーパーの前には長蛇の列ができる。開店と同時に並んだ客が向かうのはコメの販売コーナー。山積みにされた袋には「政府備蓄米」のシールが貼られている。それを1袋ずつ店員が客に手渡していく。
コンビニエンスストアに1キロ、2キロと小分けされた精米が並ぶ。袋にはやはり「政府備蓄米」のシールが貼られている。見かけた客は次から次へと手に取ってレジに向かう。販売から1〜2時間でたちまち完売してしまう。
先週からそんなニュース報道映像を目にするようになった。コメの価格の高騰が続く中で、小泉進次郎農林水産大臣が始めた政府備蓄米の随意契約による放出で、店頭販売が開始された光景だ。
もはや事態は食糧危機
しかし、「政府備蓄米」の精米袋を我も我もと手にする映像は、安いコメを買い求めるというより、もはや日本が食糧危機に陥っている有様だ。事情を知らない外国人には、きっとそう見えるはずだ。いや、まさに一般消費者が高いコメを買えない状況下で、放出された政府備蓄米に列を作るのならば、まさに食糧危機そのものだ。

さらに小泉農水相は、あと残り30万トンの備蓄米が尽きた場合には外国産米の緊急輸入も検討する意向を示している。
食料自給率が38%(カロリーベース)の日本は、主食のコメだけは自給を維持してきたはずだった。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉にあたっても、日本が関税撤廃を認めない聖域として重要5品目のなかにコメがあったはずだった。
「食料自給できない国を想像できるか、それは国際的圧力と危険にさらされている国だ」(Can you imagine a country that was unable to grow enough food to feed the people? It would be a nation that would be subject to international pressure. It would be a nation at risk.)
かつて、米国第43代ジョージ・W・ブッシュ大統領が、繰り返し口にした言葉だ。