「所得政策の拡充」と「農地集約」を急ピッチで回せ!
中森:「所得政策の拡充」と「農地の集約」を急ピッチで進めていく必要があります。
いずれも日本のコメ生産に「規模の経済」を働かせる施策です。生産量を増やせば増やすほど、生産にかかるコストが減っていく、という一連のサイクルを整備するという意味です。今はコメの生産量を増やせば増やすほど、コストもうなぎのぼりで上がっていきますから、その流れを止める、ということですね。
「所得政策の拡充」においては、コメを作っても赤字にならない、という施策が必要です。現在のコメの採算ラインにおいて、20〜30ヘクタールほどの耕作面積で生産できてはじめて黒字になります。
今のコメ農家の平均的な耕作面積は3ヘクタールほどですから、農地をできるだけ増やして採算ラインを超える農家を増やす、つまり「大規模農家」を育成する必要があります。
短期間で大規模農家に成長した中森農産(写真:中森農産提供)大規模農家を増やすには、実は「農業者戸別所得補償制度」が有効です。2010年に民主党政権下で展開された『全ての農家に10aあたり1万5000円を支払う』という制度ですが、「農家へのバラマキだ」という批判が上がった結果、2018年に廃止になりました。
考えてみるとおかしな話ですが、補償が手厚くなるのは「農地を多く所有している農家」のみです。つまり、戸別所得補償制度は「増産可能な農家」を間接的に増やせる可能性があります。日本には兼業のコメ農家が約9割いますが、農地が小さい人たちへの補償額は必然的に減ります。これのどこが「バラマキ」なのでしょうか。
もちろん、専業農家のみに補償を限定するという施策もあり得なくはないですが、政治的ハレーションなどを考えた時、戸別所得補償制度がいちばん中道で実現しやすいと考えます。
次に農地の集約(バラバラに点在する農地を1つにまとめること)です。
日本では圃場面積(農家が所有している耕作農地の区画のこと)が小さすぎて、生産効率がとても悪い。要は、農家が持っているそれぞれの田んぼが小さすぎて機械化が進まないのです。このままでは、労働コストが高止まりしてしまいます。
そこで必要になるのが、分散している圃場を物理的にひとまとめにし、圃場面積を拡大させるインセンティブをつけることです。すでに、行政は「誰がどこに、どれくらいの面積の農地を持っているか」をデータで全て持っています。
本来であれば行政が地主に対して、大規模農家に圃場を譲るインセンティブ(貸与・譲渡を促進する補助など)を与えなければいけないのに、今は大規模農家がお金をかけて登記情報を一つひとつ取得し、家まで「農地を売りませんか/譲りませんか」とポスティングしているありさまです。
大規模農家が農地を集約し、圃場を拡大できれば生産性は必ず上がります。現在「地域計画」という、使われていない農地を引き渡す国の枠組みができてはいますが、とにかく動きも遅いし、予算も不足している。
まずは3年で一気に、国が農地を大規模農家に継承する仕組みを作るべきです。というのは、農地の集約が1年遅れれば、その分、コメ生産の生産性も低いまま温存され財政負担は軽くなりません。落ちたままの生産性は補助金を出してカバーしているわけです。早く農地を集約すればするほど、補助金も要らなくなるにもかかわらずです。 実際に、自治体レベルでは九州の各県で独自の農地集約施策を行い、農業生産性を大きく伸ばしたケースも存在します。
これは生産体制の安定に直接関わる政策ですから、すぐにでも行うべきです。




