南出市長は「農家の顔が見える“ダイレクトサプライチェーン”が必要」と語る(撮影:泉大津市)
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米を5キロ3500円で販売するなど、独自のサプライチェーンを開発した大阪府泉大津市。南出賢一市長は「政府は国民と農家を守らない」と危機感を強める。泉大津市には農地がほとんどない。だからこそ「生産者の顔が見えるサプライチェーンが必要」だと説く。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

>>前編:【令和のコメ騒動】大阪・泉大津市のコメ流通改革、中間業者を介さず4割安く調達…米価高騰の影響をどう回避したか

「向こう3年」がコメ農政の分岐点

──令和のコメ騒動は備蓄米の放出を含め、いまも先行きが不透明です。泉大津市は独自のサプライチェーンをつくるなど、コメ流通が抱える課題の解決に取り組んできました。南出市長は、これまでのコメ農政全般をどう評価していますか。

南出賢一・大阪府泉大津市長(以下、敬称略):この1年間で明らかになったのは、「国は国民を守ってくれない」ということでしょう。日本人の主食であるコメが「高すぎて買えない」、農家も「儲からなくてやっていけない」という状況をつくったのは、ひとえに政治の失敗です。

 コメ農政の問題点はいくつもありますが、最大の問題点は「金の切れ目が縁の切れ目」というサプライチェーンを作ってしまったことでしょう。日本の場合は都市部に人口が集中していて、農村がコメを作ってくれなければ、日本人はコメを食べることができません。泉大津市も例外ではなく、コメのほぼ全てを外部に依存している状況です。

 それなのに、農村への感謝が薄れ「カネがあればコメは買い叩けるし、コメがどこで生産されたかは関係ない」というサプライチェーンをつくってしまった。

 本来であれば、流通段階での投機や転売をしっかりと規制し、農家と消費者の結びつきを強固なものにするサプライチェーンが必要です。「農家さんのおかげでお腹いっぱいにお米を食べられる」と消費者が自覚できる、生産者の顔が見える関係性をつくるべきだったのです。

 このままでは「カネはあるけど、肝心のコメは買えない」という状況になりかねません。

南出 賢一(みなみで・けんいち) 大阪府泉大津市長 1979年 泉大津市生まれ。上條小学校、小津中学校、浪速高校、関西学院大学商学部卒。(株)ニチロ、(有)南出製粉所を経て、2007年に泉大津市議会議員に初当選。2011年・2015年に再選し、泉大津市議会議員を3期務める。2016年12月泉大津市長選で当選。

 コメ不足を受けて、政府は備蓄米を矢継ぎ早に放出し、今では平時の目安である100万トン(全国民の1カ月半分のコメ)から10万トンにまで減っています。二宮尊徳は「3年分の食料が備蓄できていなければ国とは言えない」と言いましたが、今の日本は食料安全保障上、危機的な状況にあります。

 ここに輸入米が来年以降入ってきて、「なんだ、輸入米でも結構美味しいじゃない」と国民が油断してしまうと、コメ農政の根本的な問題を忘れてしまうリスクもあります。

 向こう3年間で、いかに農家を支えられるか。増産体制を作り、売り先を確保できるかが勝負になるでしょう。自治体は給食という安定した出口がありますので、積極的に協力していくべきです。

連携する高知県香南市長の濱田氏(左)と南出氏(右)(提供:泉大津市)

──9自治体を中心に、米どころの農家と密にコミュニケーションをとっているとのことでしたが、生産者が直面している課題はなんでしょう。