エドガー・ドガ《家族の肖像(ベレッリ家)》 1858-1869年 油彩/カンヴァス 201×249.5cm オルセー美術館、パリ ©photo:C2RMF / Thomas Clot
(ライター、構成作家:川岸 徹)
移ろう光や大気をとらえた風景画のイメージが強い印象派だが、彼らは近代化とともに重要度を増してきた私的室内を舞台とする作品も多く手がけている。「室内」をテーマに印象派のもうひとつの魅力を探求する展覧会「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」が国立西洋美術館で開幕した。
風景とともに「室内」にも目を向けた
印象派が登場する19世紀中頃まで、絵画の主役は聖書や神話の世界を主題にした歴史画(物語画)だった。美術界は美術アカデミーとサロン(官展)に主導され、彼らが重んじる伝統や格式からはみ出した作品は絵画とは認められなかった。
そうした旧態依然とした美術界に反旗を翻し、自らの世界を切り拓いたのが印象派の画家たちだ。モネ、ドガ、ルノワール、セザンヌ……。彼らはサロンから拒絶されるも、自らの手で展覧会を企画。1874年に、後に「印象派展」と呼ばれるグループ展を開催し、従来の慣習にとらわれない新しい絵画を発表した。
印象派の画家たちは聖書や神話を画題にするのではなく、近代化が進む屋外へ出て、最新のファッションに身を包んだ人々や人気のレジャー、新しい建造物、郊外の風景などを積極的に描いた。屋外の光あふれる風景を表現するために新しい技法も開発。色を混ぜてなめらかな階調をつくる古典的技法を否定し、絵の具を混ぜずにキャンバスの上に原色のまま細かく並べる「筆触分割」という技法を用いた。並べられた絵の具は鑑賞者の網膜上で混ざり合い、画家が見た印象のままの色を醸し出す。
こうした制作スタイルや技法から、印象派の画家には「光あふれた戸外の風景画」というイメージが定着しているが、室内の情景を描かなかったわけではない。というよりも、むしろ室内の情景も精力的に描いた。印象派が誕生した19世紀後半はセーヌ県知事ジョルジュ・オスマンによる都市の“大改造”が進み、居住空間も大きく進化。人々は近代的な空間で現代生活を満喫した。そうした時代の劇的な変化を、印象派の画家たちが見逃すわけがない。
国立西洋美術館で開幕した「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」は、印象派のもうひとつの魅力といえる「室内」をテーマにした展覧会。パリの名門オルセー美術館のコレクションが約10年ぶりに大規模来日し、その数約70点。さらに国内外の重要作品を加え、合計約100点の作品によって室内をめぐる印象派の画家たちの関心のありかや表現上の挑戦をたどっていく。

