政府機関に自由に出入りする環境がなぜ重要なのか?
サンダース:報道機関が情報収集の面で政府に依存する関係はよくありません。しかし、記者が政府機関内に入ることができる環境を維持することは極めて重要だと思います。
たとえば、政府が何かを発表する場合、そこに記者がいて鋭く質問をすることで政府が噓をついたり、物事を曖昧に処理したりすることをかなり防げるからです。
私は長年、中東で報道に携わりましたが、そうした権威主義の国家では政府に異議を唱えることが難しい。政府高官と自由に接触もできません。
そうしたことを踏まえると、政府高官と接触でき、報道側がそこで見て聞いている、記者が同じ空間に存在しているというだけで説明責任が生じるのです。私たちはそこにいる権利を放棄すべきではありません。
──今年3月、ヘグセス国防長官がメッセージングサービス「Signal」で行ったグループチャットの内容を米アトランティック誌が記事にしました。ヘグセス国防長官はこの件で激怒しましたが、この出来事が新規定制定に関係していると思いますか?
サンダース:報道機関はこれまで、ヘグセス国防長官のさまざまな誤りを暴いてきました。彼の個人的な恥ずかしいエピソードから、政府公式でない通信アプリでの機密情報の交換まで、さまざまなものです。
彼はそうした報道が出るたびに恥をかき、傷ついたでしょう。彼が復讐心からこうした新規定で報道機関を縛ろうとしても不思議ではありません。「オレを困らせるとお前も困らせるぞ」と脅かしているのです。
でも、その結果はむしろ彼にマイナスな形で返ってくるのではないでしょうか。報道機関は今回の件に反対する形で結束を強めてしまった。そして、より重要なことは、ペンタゴンに張り付いていた記者たちは、今後ペンタゴン内部の職員たちからリークなどの形で情報をむしろ得ていく可能性がある。
国防総省の職員の多くは、トランプ政権が好きだから国防総省で働いているわけではありません。民主主義を信じている人たちも少なくありません。
記者はさまざまな職員たちとやり取りをしています。何かしらの思いを持っている政府職員たちが、記者たちに自ら情報を提供しにいく機会が増える可能性があると思います。ぜひ日本は、アメリカ政府の間違いを反面教師にして学んでください。
エイミー・クリスティン・サンダース(Amy Kristin Sanders)
ペンシルベニア州立大学
ジョン・アンド・アン・カーリー記念憲法修正第1条研究講座教授
弁護士資格を持つ受賞歴のある元ジャーナリスト。メディアの自由、言論の自由、政府の透明性、ソーシャルメディアおよび新興テクノロジーの規制などのテーマを研究している。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。
