世の中にはさまざまな愛のカタチが存在する(写真:Anton Yulikov/shutterstock)
動物と愛し合う動物性愛の人々について書いた『聖なるズー』(集英社)で第17回 開高健ノンフィクション賞受賞作を受賞した気鋭のノンフィクションライター・濱野ちひろ。同氏は2020年から継続的にラブドールを愛する人々を取材しており、このたび1冊の本にまとめた。なぜ彼らは等身大の人形を、人間以上といってもいいほど深く愛するのか。『無機的な恋人たち』(講談社)を上梓した濱野ちひろ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──性的な関係を持つことを想定して購入する等身大の人形をラブドールと言いますが、実際はどのようなものなのでしょうか?
濱野ちひろ氏(以下、濱野):現在ラブドールのクオリティは相当に向上しています。最も生産量が多い国は中国で、日本やアメリカではシリコン製のラブドールが主流ですが、中国ではTPE素材で作られたより安価なラブドールもよく売れています。
中国のジーレックス社のラブドール(写真:著者提供)
TPE素材は弱く、どこかゼリーのようで、高熱で溶けてしまったり化粧がしにくかったりするので、本当にラブドールが好きな人はシリコン製を購入します。
基本的にラブドールは動きませんが、技術的に最先端のものは人工知能が搭載された「セックスロボット」と呼ばれるタイプで、多少おしゃべりをしたり、うなずいたり、瞬きをしたりします。
──米ミシガン州デトロイトに住む、ラブドールの愛人「シドレ」と暮らすデイブキャットという人物について書かれています。彼のシドレに対する思いは、どのようなものだと感じましたか?
濱野:デイブキャットは私が最も時間をかけて取材した人物で、彼はラブドールのシドレを自分の妻だと考えています。自分のことも「ドールの夫」と呼んでいます。彼はシドレと25年間も一緒に住んでいますが、ラブドールの身体はどうしても劣化していくので、今のシドレは4体目になります。
デイブキャットとシドレ(写真:著者提供)
シドレは日本人とイギリス人のハーフという設定で誕生日もあるのですが、デイブキャットはとても細かくシドレの人格や物語を作り込んでいます。彼女の日々の出来事について日記のように綴り、そのように作り出してきた彼のファンタジーがシドレのパーソナリティーとなり、彼女を本当の人間のような奥行きのある存在にしています。
私は2年かけてデイブキャットに数えきれないほど会いましたが、最初に会った時はやはり衝撃的でした。彼は私の前でも、本物の恋人のようにシドレとイチャイチャしていました。
私が2人の思い出について質問すると、「シドレ、あれはいつだったっけ」と言ってデイブキャットはシドレに太ももに手を置いて、2人で会話をするように話します。そのやり取りがあまりにも自然で、まるで本当に寡黙な妻が隣に座っているような印象でした。あれは演技とはまた違いますね。
長いこと時間を共にしたので、私にもシドレが生きた人間かのような感覚が移りました。
──デイブキャットは人間とも恋愛関係になったことはあるのですか?