しかし、好事魔多しという格言通り、前々から噂のあった背任罪や贈収賄、詐欺罪での刑事捜査がこのころから本格化する。

元「Walla!」編集長 ©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 そして、ネタニヤフ自身が任命した司法長官が2019年、3つの事件でネタニヤフを起訴した。こうしてネタニヤフは在任中に刑事起訴された初のイスラエル首相となった。

汚職追及をかわすのが戦争の目的なのか

 窮地に追い込まれたネタニヤフには、2つの選択肢があった

 1つは、自ら非を認め、いさぎよく首相の座から降りること。

 2つめは、極右の政治家を取り込むことで、パレスチナという外敵を煽り、内政を固めるという方法。

 ここで首相を辞任したら、汚職の追及がこれまで以上に激化することを怖れたネタニヤフは、2つ目の選択肢を選ぶ。つまり、パレスチナ人への敵意を募ることで、自分への攻撃をかわそうとしたのだ。

 極右のクズのような政治家2人を、ネタニヤフの汚職追及に興味がないという理由だけで、財務相と国家安全保障相という要職に招き入れた。2人の興味は、パレスチナ人の根絶やしであり、ネタニヤフは担ぎ勝手のいい神輿でしかなかった。

 これによって、「パレスチナ人は存在しない」と国会で言い放ったり、「パレスチナ人は全員、ユダヤ人を殺そうとする聖戦士(ジハード)だ」と記者に向かって放言するような筋金入りの差別主義者たちが、政権の中枢に入る。

故シモン・ペレス首相の元上級顧問ニムロッド・ノヴィク氏 ©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 同時に、ネタニヤフは自分への司直の手が伸びないようにと、司法制度の骨抜きを狙い“司法改革”にも取り組む。しかし、これにはイスラエル国民の堪忍袋の緒が切れる。10カ月近いデモがイスラエル全土で引き起こされる。

 この内政の混乱を最大の好機だと見たのがハマス。行動に出たのは、2023年10月7日のハマスによるイスラエルの攻撃だった。

 イスラエル軍の直後の反撃以降、ネタニヤフは「全面勝利」まで一歩も引かない、と主張して、不要なまでに戦争を長引かせようとした。その理由が、現在も継続中の汚職裁判の延期を狙ってのこととした、どうだろう。

 アメリカのトランプによる強引な仲介で一時的に鎮静化しているとはいえ、まだまだ予断を許さないイスラエル・ガザ戦争の行方だ。そうした中東情勢を理解する上で一見の価値のある映画と言えよう。

『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』

11月8日(土)シアター・イメージフォーラムほかにて公開 

配給:トランスフォーマー

製作総指揮:アレックス・ギブニー 

監督・製作:アレクシス・ブルーム

HP: http://transformer.co.jp/m/thebibifiles