線虫の一種C. elegans(写真:Heiti Paves/Shutterstock.com)
生命科学の研究では、線虫の一種C. elegans(シー・エレガンス)がモデル動物としてよく使われる。体長はおよそ1mm、身体を構成する細胞数は約1000個で、神経細胞については全数に加えてそのつながり具合もすべて明らかにされている。名古屋大学の野間健太郎准教授は、この線虫の神経細胞に備わった老化に関わる新たな機能を発見した。それは種の生存のために自らを犠牲にする機能かもしれないという。そんな線虫の生き方から、人は何を学べるだろうか。
(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)
モデル生物としてメリットの大きい線虫
線虫は研究に使いやすい生き物であり、数多くの研究に使われてきた。その結果、線虫を使った研究はこれまでに4度もノーベル賞を受賞している。2002年のプログラム細胞死(アポトーシス)の発見、2006年のRNA干渉の発見、2008年の緑色蛍光タンパク質の応用、そして2024年のマイクロRNAの発見である。
「線虫は、研究用の生物として非常に適しているのです。なぜなら体が透明なため体内の観察が容易で、寿命が2~3週間程度と短く結果が早く出るので老化の研究を行いやすい。神経系の全体像がわかっている左右相称動物であり、遺伝子の約7割程度はヒトと共通しています。特に、研究用として使われるC. elegansには、オスと雌雄同体の2種類があり、雌雄同体は遺伝学的な解析に適しています。生まれて3日ほどで300個体ぐらいを生むので、増やすのも楽です」
名古屋大学大学院理学研究科で研究を行っている野間健太郎准教授は、実験動物としての線虫のメリットをこのように説明する。
野間 健太郎(のま・けんたろう) 名古屋大学大学院理学研究科生命理学講座 准教授2010年京都大学理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。2010年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校生物学科、2012年から同ハワード・ヒューズ医学研究所生物学科でポスドク。2017年名古屋大学 大学院理学研究科 附属ニューロサイエンス研究センター 産学協同部門 栄養神経科学講座 特任助教、2021年より現職。
野間氏は京都大学理学研究科で博士号を取得した後、ポスドクとして米カリフォルニア大学サンディエゴ校のYishi Jin教授のもとで、線虫の研究に本格的に取り組み始めた。帰国後は名古屋大学に着任し、改めてこれまでの線虫の研究を見直した。そこで、これまでの研究にはなかった視点に気づいた。
「線虫の個体寿命や若い線虫の神経系についてはさまざまな研究が行われています。このScienc-omeのシリーズでも取り上げられていた奈良県立医科大学の中村(修平)先生も、線虫を使ってオートファジーと寿命に関する研究をされています*1」
*1:オートファジー活性化で寿命を延ばす!専門研究所が誕生、細胞内のゴミをリサイクルする仕組みで老化抑制へ
「老化に関する研究には2つのアプローチがあります。1つはヒトの老化を治す方向で取り組む医学的なアプローチです。一方で私は理学的アプローチで、なぜ老化が起きるのかを突き止めたい。そこでいろいろ調べているうちに、線虫においても自然な加齢に伴う神経系の変化やその結果として起こる行動の変化についての研究が抜けていることに気づいたのです」
