著者フォロー
牛ヶ渕・千鳥ヶ淵から雄大な桜田濠へ
桜咲く千鳥ヶ淵。もともと淵だった地形に手を加えて巨大な濠としたもの北の丸から吹上にかけての濠も強力だ。何せ、江戸城の中枢部を台地続き方面から防禦するのが北の丸や吹上の役目なのである。
まず、北の丸の正面口に当たる田安門に向かって左手側（東側）を守るのが牛ヶ渕。同じく、田安門に向かって右手側（西側）が桜で有名な千鳥ヶ淵。名前から知れるように、もともと水の湧く谷だった地形を利用して濠にしているのだが、幅・深さともに凄まじい。言葉で説明するより実物を見て下さい、としかいいようがない。
牛ヶ渕。緑の小山のように見えるのは北の丸の切岸だ西側の千鳥ヶ淵は、半蔵濠をへて桜田濠へと連なるが、半蔵門のあたりから桜田濠を眺めた雄大な景観は、江戸城最大の見所の一つ。いくら谷を利用しているとはいえ、この土木量は凄まじすぎる。遠く霞が関の官庁街が積み木のように見える。
半蔵門手前あたりから見た桜田濠。もともと谷だったとはいえ、ここまでやるか……白鳥濠・蓮池濠から見える防禦戦術
本丸の白鳥濠は近世城郭としては普通サイズ。ポイントは石垣の高さ城内の曲輪を区画する濠も当然ある。三の丸と二の丸を隔てていた濠は、近代以降ほとんど埋められてしまったが、現在の三の丸尚館や向かい側の休憩所のあたりが濠跡だった。城内での見所は、本丸と二の丸を隔てる白鳥濠と、本丸・西の丸を隔てる蓮池濠である。蓮池濠は普段は非公開だが、春と秋に行われる乾門通り抜けの時に見ることができる。
本丸西側の蓮池濠。乾門通り抜けのときが実見のチャンスだ白鳥濠も蓮池濠も、これまで見てきた外回りの濠に比べると幅が狭く思えるが、これは本丸の石垣が高いから。本丸は石垣の高さで守る設計だが、石垣が高いと直下がどうしても死角になる。その死角を打ち消すのが白鳥濠・蓮池濠の役目で、要するに石垣の足元に取り付かれないための濠なのだ。
もう一つ、乾門通り抜けに行くことがあったら見落としたくないのが、西の丸側にある道灌濠。「道灌濠」といっても太田道灌時代まで遡るわけではないので、名前の出所は不明だが、戦国時代を思わせる古風な土造りの濠という意味で、いつしか呼ばれるようになったものだろうか。
ウワサの道灌濠。都心のど真ん中とは思えない情景だいかがです？ 江戸城の濠、なかなか奥深くて面白いでしょう？ ちなみに筆者は、今回の記事をまとめていて、あらためて濠の写真だけ撮るために一日中、江戸城を散策してみたい、と思った次第。
［参考図書紹介］
堀をどう築き、どう守るかといった「堀のロジック」に興味のある方は、西股総生『パーツから考える戦国期城郭論』（ワン・パブリッシング2021)をぜひご一読下さい。
