2025年9月19日、世界陸上東京大会、女子やり投げ予選での北口榛花 写真/松尾/アフロスポーツ
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(スポーツライター:酒井 政人)

女王の登場に拍手喝采もやりは伸びず

 東京2025世界陸上の大会7日目(9月19日)、19時30分開始の女子やり投げA組の第1試技者として北口榛花(JAL)が登場。一昨年のブダペスト世界陸上と昨年のパリ五輪で金メダルを獲得した女王に5万人の大観衆が熱狂した。

 決勝へ進むには62m50を超えるか、21時00分開始のB組の選手を含めた36人中、上位12位以内に入る必要がある。67m38の日本記録を保持している北口に“厳しい戦い”が待ち構えていた。

 1回目は60m31をマークして笑みを浮かべたが、2回目は60m38に記録を伸ばすも北口は険しい表情だった。その後、60mラインを超える選手が続出。女王は7位に転落した。

 最終3回目のやりも伸びず、会場から大量のため息が聞こえてきた。記録は58m80で、北口はA組8位という結果に沈んだ。自力で予選を突破することができず、決勝進出はB組の結果次第となった。

 試技を終えた北口は目を赤くして、「たぶん決勝には残れない。悔しい結果になったんですけど、春先からちょっとケガが続いて、精神的にも苦しい部分がたくさんありました。その度に今年は東京世界陸上があるから『やっぱり練習に戻ろう』という気持ちになれたんです。今シーズンの素敵なゴールを作ってくださった皆さんに感謝したいです」と語った。

 今回の大苦戦は6月に右肘を痛めたことが大きく影響している。7月上旬の日本選手権を欠場。8月はダイヤモンドリーグで実戦復帰するも、本来の投げを東京で披露することができなかった。

 右肘の状態は良好だったが、「自分のやりがどのぐらい前に飛んでいくのか。正直、想像できないまま練習してきたんです」と北口は技術面で不安を抱えていた。そのモヤモヤした気持ちを吹っ切るために、最後の投てき練習では右肘を保護していたテーピングを外して臨んだという。

「その方が感覚が良かったので、今回はテープなしで試合に出場しました。正直、テープの有無で、どれぐらい自分の気持ちが変わるのか分からなかったんですけど、1回目で60m飛んで少しホッとしたんです。助走に関しては凄く良かったんですが、3回目は久しぶりに投げ急いでしまった。技術面をうまく噛み合わすことができなかったかなと思います」

 3回の試技を最初に終えて、記録は60m38。「これ以上は超えないで……」という願いは届かなかった。B組を含めた総合結果は14位。決勝進出ラインに60cm届かず、女王は予選で姿を消した。

「とりあえず一旦休んで、自分の頭が右肘のことを考えないで練習できるようにしたいと思います。世界大会の借りは世界大会でしか返せません。ここで決勝に残れなかったからといって人生は終わりではないですし、ちょっと長い休みが必要かもしれないですけど、強くなってちゃんと戻ってきたいと思います」