研究費申請に当たって資料を確認しているところ(写真:筆者)
目次

(齊藤 康弘:慶應義塾大学政策・メディア研究科特任准教授)

 研究する上で不可欠なものは研究費である。どれほど肥沃な土地でも、水がなければ種は芽吹かない。研究費は農地に水を与えるように、研究を育む基盤である。いわば、研究費は研究者にとって命の水であり、途絶えた瞬間に研究は停止する。研究における燃料こそが研究費である。

 筆者も今年は科研費の申請時期に該当し、7~9月は申請シーズンに当たる。この2カ月間は直近の未来の研究案を思案し、何とか今年度も申請書を仕上げ、無事に提出した。この研究者の命の水である研究費について紹介したい。

研究を動かすお金の話──国の研究費いろいろ

 その代表が「科研費」である。正式名称は科学研究費助成事業であるが、研究者の間では「今年の科研どう?」が挨拶代わりになるほど浸透している。独立行政法人・日本学術振興会が毎年夏に公募を行い、基盤研究(S、A、B、C)、挑戦的研究(開拓・萌芽)、若手研究などに区分される。

 金額は規模によって大きく異なる。基盤研究(S)は5年間で最大2億円に及び、採択されるのは“超有名な先生”と呼ばれる研究者に限られる。

 基盤研究(A)は2000万〜5000万円、基盤研究(B)は500万〜2000万円、基盤研究(C)は500万円以下である。挑戦的研究は既存の学問体系を覆す発想を対象としており、予算規模もまた異なる。

科研費獲得の狭き門

 採択率は全体でおよそ3割に過ぎない。すなわち7割が落選するわけであり、研究者にとって採択通知は学会発表以上に心臓に悪い瞬間である。

 バイオサイエンス分野の実感としては、年間500万円の基盤研究(B)が研究室運営の最低ラインであり、年間150万円の基盤研究(C)では細胞培養の試薬や、チューブ(検体などを入れる試験管類)などのプラスチック消耗品を購入するだけで息切れする。

 研究員や技術員を雇用するには、より大型の研究費が不可欠である。これら研究費で足りない分は他から研究資金を調達する必要がある。

 また、過去に研究費が優秀な研究者に集中するという問題点が指摘されたため、その改善策として特定の個人や研究室に科研費が集中することを防止する重複制限が設けられており、基盤研究(C)に採択されている研究者は挑戦的研究に申請できない等の制限がある。