首都ワシントンへの州兵派遣を発表したトランプ大統領に反発する人々(8月11日、写真:ロイター/アフロ)

「今、そこにある脅威」を感じていない市民

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 米国のドナルド・トランプ大統領に夏休みはない。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談を控え、「許しがたい敵」をねじ伏せようとする「炎と怒り」*1は燃え上がる一方だ。

*1全米沸騰のベストセラー、マイケル・ウォルフ『炎と怒り――トランプ政権の内幕』(原題 Fire and Fury: Inside the Trump White House)、|Hayakawa Books & Magazines

 トランプ氏は8月11日、首都ワシントンD.C.に「犯罪緊急事態」が発生したとして州兵約800人を投入、コロンビア特別区首都警察を連邦政府指揮下に置くと宣言した。

 主要メディアは取り上げないが、このところトランプ氏の「老人性認知症」説が再燃している。特に医療専門メディアが取り上げている。

 そこでトランプ氏の「犯罪緊急事態」宣言も、ひょっとして「老人性認知症」による戯言では、と勘繰る向きもある。

Donald Trump, Joe Biden and dementia: Why not to diagnose from a distance | Alzheimer's Society

Donald Trump's dementia is showing

「首都は世界で最も超危険な町だ」

 トランプ氏ご本人がそうした噂を耳にしているかどうか。いずれにせよ、馬耳東風の同氏は今回の決定の理由についてこう述べた。

「ワシントンの殺人発生率は、世界で最も危険だとされる都市よりもはるかに高水準だ」

「我々の首都は、暴力的なギャングや血に飢えた犯罪者、薬物中毒の狂った集団、路上生活者によって支配されている」

 そこでトランプ氏は、ワシントンの地方自治に関する法律(House Rule Act, Section 740)に明記された「非常事態」が生じた場合、大統領は警察当局を30日間指揮下に置くことができるとする権限を実行した(延長するには上下両院が合同決議案を可決することが必要となる)。

whitehouse.gov/presidential-actions/2025/08/declaring-a-crime-emergency-in-the-district-of-columbia/

 米議会は現在、夏休みで休会中。

 首都は夏休みを利用した観光客であふれているが、「犯罪がここにきて特に急増しているとは言えない。統計上は首都の犯罪はむしろ減っている」(首都警察関係者)中で、トランプ氏の唐突な決定に首をかしげる者も少なくない。

Fact check: Violent crime in DC has fallen in 2024 and 2025 after a 2023 spike | CNN Politics