マーケットはいよいよ「金融相場」に移行する? 写真はFRBパウエル議長(写真:ロイター/アフロ)
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(白木 久史:三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト)

 9月5日に発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比2.2万人増加にとどまり、失業率も2021年以来の水準となる4.3%に上昇するなど、改めて雇用環境の失速を印象付ける結果となりました。

 最近の米国株式市場は、関税交渉の進展、好調な企業業績、そして、米連邦準備制度理事会(FRB) による利下げ期待を背景に順調な戻り相場が続いてきました。しかし、内需主導の米国経済のエンジンともいうべき「雇用」の変調が鮮明になってきたことから、今後の米国株式市場は一筋縄ではいかない展開となりそうです。

雇用の失速で終わる「適温相場」

 9月5日に発表された8月分の米雇用統計は、NFPが前月比+2.2万人(市場予想:+7.5万人)、失業率は前月の4.2%から2021年以来の水準となる4.3%に上昇(同4.3%)しました。また、6月分のNFPは、コロナ禍の最中の2020年12月以来の前月比マイナスとなる▲1.3万人へと改定され、「米雇用環境の失速」を印象付ける結果となりました(図表1)。

 今年の米国株式市場は4月のトランプ関税の発表を受けて大荒れとなり、S&P500種指数は高値から一時約2割調整する展開となりました。しかし、①中国との関税報復合戦の収束や主要国との関税交渉の進展、②好調な企業業績、そして、③FRBによる利下げ期待などを背景に上昇に転じ、その後は長期の上昇基調に回帰してきました。

 こうした最近の戻り相場は「ほどよい経済成長」と「利下げ期待」が同居する、良いとこ取りの「適温相場」であったと言えそうです。しかし、8月と9月に発表された米雇用統計の結果を受けて、米国のGDPの約7割を占めるとされる個人消費を支える「雇用」の失速が確認されたことから、絶妙なバランスを保ってきた「適温相場」は継続が難しくなってきたように思われます。