1ドル161円台に向かう?写真は2024年6月(写真:ロイター/アフロ)
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 トランプ関税の発表により始まった米国との通商交渉で、日本は当初トップランナーの一国と目されていました。しかし、自動車関税の撤回などにこだわる日本と米国との溝は深まるばかりで、交渉は長期化しています。そして、7月9日の関税措置の猶予期限を前にトランプ大統領から「25%の相互関税」が日本に通告されました。

 関係者の利害調整が難しい参院選直前のタイミングで日本側は米国から厳しい要求を突き付けられた格好です。そして、為替市場ではトランプ大統領による不満表明ともとれる発言をきっかけに円安が進み、7月1日には142円台をつけていたドル円レートは7月9日には一時147円台まで上昇するなど、にわかに円安圧力が高まっているように見受けられます。

(白木 久史:三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト)

市場が気付き始めた、トランプ関税が引き起こす「円安トレンド」

 足元でじわじわと円安ドル高が進行しています。きっかけは7月1日にトランプ大統領が「日米通商交渉合意の可能性は低い」「関税発動の猶予は考えていない」「日本の相互関税は30~35%」などとコメントしたことで、以降、ドル円レートは7月1日の142円台から7月9日には一時147円台をつけるなど、円安ドル高が進行しています(図表1)。

【図表1:ドル円レートの推移】

(注)データは2025年5月30日~7月9日
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 トランプ関税が円安ドル高に作用するのは、一連の米国側の要求が、①対米貿易黒字の削減、②日本の防衛予算拡大、③消費税を含む非関税障壁の撤廃など、いずれも円売り要因として為替市場に影響する可能性があるからです。加えて、高率の関税により④日本経済に下押し圧力が加わることも、円安トレンドに寄与している可能性がありそうです。

「トランプ関税」が円安に働くメカニズム

 例えば、①対米貿易黒字の削減は直接的には輸出企業のドル売りニーズの低下を通じて円安要因に、更に、日本企業の米国での生産拡大のための対米直接投資の増加や経常黒字の還流を促すことで、長期的な円安ドル高要因として作用する可能性がありそうです。

 また、②防衛費の増額による財政支出拡大や、③消費税の税率引き下げや廃止などは、いずれも日本の財政悪化を招くことで、円の信認低下を伴う円売り圧力となりそうです。

 そして、④日本経済への下押し圧力が高まると、日銀による追加利上げが難しくなる恐れがあり、日米金利差の縮小を手掛かりとした円買いドル売りポジションの解消を迫る可能性があります。

 弊社では、米国が日本に25%の相互関税を課した場合に、日本のGDP成長率が波及効果を含めて▲0.78%押し下げられるものと試算しています。日本経済は、2025年1-3月期の実質GDP成長率(2次速報値)が前期比年率▲0.2%のマイナス成長となるなど停滞感が強まっていますが、こうしたトランプ関税による景気下押し圧力が加わると、景気の停滞感は更に深まる可能性がありそうです。