参院選でも物価高は大きな争点になっている(写真:共同通信社)
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(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 金融市場は相変わらずトランプ関税の話でもちきりである。既報の通り、トランプ政権は8月1日から、日本に25%の相互関税を適用すると明らかにしている。発動済みの基本税率10%に15%が上乗せされることになる。

 各国に送付された書簡は国名と首脳名、税率以外は全て同じ文面で、交渉の経緯には全く触れられていない。同時に「米国内で生産するなら関税はかからない」と交渉の余地も示唆しているが、3カ月間、赤沢経済財政担当大臣を中心として足しげく渡米し、交渉が重ねてきたにもかかわらず、交渉前の税率(24%)対比で+1%ポイント高い25%で着地するという結果は「完敗」と表現せざるを得ない。

 もっとも、米国の主張は根拠薄弱であり、日本の交渉力不足と責めることも気が引ける。ベッセント米財務長官からは「参院選が合意に向けた制約になっている」との発言も見られており、7月20日以降に事態が急遽、動き出す可能性も排除できない。

 ただ、赤沢大臣は「自動車分野での合意がなければ全体の合意はない」との姿勢を崩しておらず、大きな進展は直感的に期待できそうにない。

 現時点では25%の関税が課された場合に、日本の企業部門が被る影響についてラフなイメージを作っておいた方がいいかもしれない。

 この点、交渉決裂に合わせて円安・ドル高が進んでいることは不幸中の幸いではある。書簡公表後のドル/円相場は147円台と2週間ぶりの高値圏まで押し上げられた。本稿執筆時点でも145~147円で直近高値が維持されている。

 円安は関税の痛みを和らげる方向へ作用する。円安が日本経済全体にとって望ましいかどうかという議論は脇に置くが、関税負担を軽くするのは事実だ。