日本人とは異なるイスラエル人と世界の視点

 私が、この本を手に取る価値があると思う理由の一つは、テーマに関する実務者の証言だからだが、もう一つ重要な点は日本人とは全く異なる国家観、歴史観が存在することを知ることだ。

 ヨナト氏は、ホロコーストサバイバーの2世であることを明かしている。父からは、「敵とは戦わないといけない。敵に殺されるような危険な状況に自分たちの身を置くことを許してはならない。」と何度も教えられたとし、イスラエルも「自らの能力に頼り、常に備えよ」という戦略に基づいて建国されたと記している。

 イランの核開発を阻止するチームの立ち上げを依頼する上司が、承諾を渋るヨナト氏を説得した言葉は「さらに600万人のユダヤ人が死ぬかもしれない」という言葉だった。敵に囲まれ、実際にイランが支援するハマスの残虐なテロに遭遇したイスラエル人の捉える世界は、このようにイスラエルに対する敵意と現実の生命の危機を前提にしたものだ。

 また、ロシアは領土問題については偏執的で、日本を軍事的脅威と見做しているとし、日本を信用できないとして工作活動を続けるとしている。

 敗戦後、私たちの日本国憲法前文にあるように「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」日本人とは異なり、世界は、今だに「力による平和」こそが正義であり、その意図を明らかにするために、アメリカ大統領が「国防省(Department of Defense)」を「戦争省(Department of War)」に変えようとしている時代に、私たちは生きている。

日本が直面する2035年までの危機

 中露と北朝鮮という核保有の近隣三カ国と欧米と日韓という対立構造になった時、尖閣諸島問題と台湾有事の危機、そして在日米軍を抱える日本は地政学的にかなりの確度で、戦争に巻き込まれる。

 著者は、中国は今後、急速な人口減少と高齢化による国力低下に見舞われることが予測されており、国力のピークであるこの10年の間に、冒険主義的行動を取る可能性があると警告している。

 全世界でスマホ利用者は約45億人、1日の平均利用時間4時間、フェイスブック利用者が約30億人の時代、陸海空、宇宙・サイバーに続く、「第6の戦場」は、SNSを通じた人の心とそのマインドハッキングとなる。

 ロシアや中国は、日本への攻撃を続けており、手口は確実に進化している。特に、これまでは日本語の特性から不自然さがあったが、近年AIによって日本語適応能力を飛躍的に向上しており、巧みな攻撃は継続すると警告している。

 私たちはスマホとSNSを経由して脳に直接働きかけてくる「影響力工作」の実態のリアルを知り、それに備え、自らの心を守り、ダークサイドに落ちない必要がある。私自身も、極端な主張を書き込んでいるアカウント名がランダムなアルファベットと数字の組み合わせで、フォロワー数が少ない場合は、botであろうと判断することにしている。

 国際社会の地政学の現状と、日本に向けられている認知戦の実態を知り、日本の国家安全保障と民主主義を守るために備えることは、最低限必要だ。