「認知戦」を超えて
しかしながら、私は日本が、攻撃的な認知戦に積極的に関わっていくには慎重な議論が必要だと思っている。奇しくも、これほど、認知戦を重要視している著者は、ガザ侵攻については「イスラエルは物理的な戦争では優勢だが、世界中からの「認識」で負け続けている」と認めている。
その負けの理由は、認知戦や影響力工作では、攻撃側が常に先制攻撃でき、攻撃側のイランやハマスが長年影響力を行使して来たからだと。認知戦に長じた国家の経験豊富なエキスパートが、自国の認知戦での敗北を認めることほど、皮肉なことはない。
欧米各国が帝国主義の時代に、アジア、アフリカ各国に様々な工作を仕掛け、搾取の構造を作ったことをアジア、アフリカのグローバルサウス各国は記憶している。
ウクライナ侵攻でロシアを非難しながらも、ガザでのイスラエルの非人道的行為を止められない欧米各国を冷ややかな目で見ているのは、そうした過去の植民地時代の情報戦や工作を記憶しているからだ。(実際に、ケンブリッジ・アナリティカの親会社であるSCLは、アフリカ諸国等への諜報工作活動の専門会社であり、そのノウハウをデジタル武装したのがケンブリッジ・アナリティカだった。)
著者は、ロシアによるアフリカでの政権転覆を独自調査し25%もの高い確率で成功していると指摘しているが、工作はどこまで行っても工作であり、ハッキングはどこまでいってもハッキングでしかない。相手国の信頼と尊敬は得られない。
中国、ロシアといった権威主義国は、この手の「影響力工作」には長けて一時的に成功したとしても、国家としての信頼や国民への親近感を損なうと、全ての発信情報を信じてもらえないというジレンマに陥る。
国際社会の変化と認知戦という新しい戦争の実態を正しく認識し、防御に努めながらも、戦後80年国民一人一人が築き上げてきた平和への想いとともに、信頼に足る民主主義国家としての敬意を持たれる国をやはり目指すべきではないか、等と考えさせられた一冊。
安川 新一郎マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社・シカゴ支社を経てソフトバンク株式会社に社長室長入社として入社、執行役員本部長、等を歴任後、次世代社会への投資と人材育成を目的としたグレートジャーニー合同会社創業。東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、等として政府・自治体の課題解決にも取り組む。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員。藤田医科大学客員教授。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth共同創業者兼特別参与。「BRAIN WORKOUT人工知能(AI)と共存するための人間知性(HI)の鍛え方」(KADOKAWA)を上梓。探求テーマは、AIなど汎用技術による人類の変革、仏教と東洋哲学、戦争の歴史と地政学、知的生産の技術の向上全般、より善く生きるための教養全般。
各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります
(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)
この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。
この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。
私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。
簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。
それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。
ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。
少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。